第70話 危機迫る中

 魔法を使わず滝を上れ。

 そんなこと、できる者がいるのであれば是非ここへ呼んできてほしいものだ。


「まあでは見本を見せた方がいいか」


 そう呟くと、クナイ先生は滝上を足場とし、滝を駆け上がった。その速さに驚くも、到底魔法を使わなければいけないほどの技に僕たちは思わず目を奪われた。


「あのー、どうやってそれをしろと?」

「そうか。さすがにむりだったな。では息を殺して隠れる修行をしよう。この術はいつか必ず役に立つから覚えておけ」


 クナイ先生は近くにあった森へと歩み寄ると、一瞬にして姿を消した。まるで転移魔法や透明化の魔法でも使ったのかと思ったが、どうやらそうではなうらしい。

 クナイ先生は木陰から姿を現し、僕たちの前に姿を現した。


「ではこの術について教えよう。この術はただ息を殺すのではなく、息すらも周囲に同化させることが必要だ。だからまずは周囲と息を連動させろ」


 周囲と同化?

 少し意味の分からない言葉ではあるが、一応やってみるだけやってみよう。


 僕は息を吸い、そして吐く。それを何度も繰り返す。だがしかし、一向に何かを掴める気がしない。

 一体同化とは何だ?


 アニーの方を見てみると、アニーはどうやら何かコツを掴んでいるようであった。息を吸い、そして吐く。その行為だけなのに、アニーの姿が一瞬ぼやけて見えるようになっている。


「アニー。その調子だ。イージスも頑張れ」


 アニーを真似してみようと心みるが、やはり難しい。

 僕は一旦周囲を見渡してみることにした。滝が流れ、そして木々が生え揃っている。葉っぱが空気中を游ぎ、光が空から差し込んでいる。


「周囲を同化……」


 滝の音、木のにおい、葉っぱの動き、光の度合い……そして息をした。すると自分でも感じられるほどに、僕は周囲と一体化したような不思議な気分を味わっていた。


「おやおや。イージスもできているじゃないか」


 そんな具合で、魔法忍者の修行は刻一刻と進んでいた。そしてじきに夜になり、僕は寮へと帰った。

 食事を終えて皿を洗っている最中、アニーが受話器を持って僕のもとへと歩み寄ってきた。


「ムラサキ=アーサーっていう人から電話が来てる」

「姉ちゃんからか」


 僕はてを洗い、受話器を片手にベランダへと出た。


「お姉ちゃん。どうかしたのか?」

「いや、それがだな、ヘルメス家から一つの贈り物が届いていたんだ」

「ヘルメス家から?なんで?」

「一応中身を確認してみたんだけど、それは私の生徒手帳だった」

「クイーンは!?」

「分からない。けど、しばらく何もなかったんだから、きっと何もないでしょ。大丈夫でしょ」

「ああ。また何かあったら電話してくれ」

「了解」


 電話は切れた。

 イージスは受話器を片手に、壁に寄りかかる。

 一体どうしたものか、と悩んでいると、一人の女性がベランダに降り立っていた。


「私はイフ。単刀直入で悪いけど、クイーンを救ってくれ」

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