第68話 魔法忍者

 クイーンがいなくなってから既に一ヶ月。

 僕はクイーンのいない日常へ慣れてしまったのか、日々をいつも通りに暮らしているのだった。


「イージス。明日の小テスト範囲知らされないから良い点取れるか心配だよ」

「魔法で盗み見でもするか」

「駄目だぞ。そんなことしちゃ」

「うそうそ。当然、実力でテストを受けるよ」


 笑みをこぼしながら僕たちは会話を交わしていた。

 いつの間にか忘れてしまっていた。クイーンのことを。そしてあの夢の中で聞こえた聞き覚えのある声の正体すらも。

 今日も一日が終わり、僕はアニーとともにどこの魔法職の体験をするかについて悩んでいた。


「どうする?魔法忍者とかいいんじゃない?」

「そうだな。一回体験してみるか」

「うん。あ、でももうすぐ半年が経つのか。もうそろそろ決めときたいね」

「確かにな。じゃあ魔法忍者の体験に行ったら、本格的に魔法職を決めるか」

「うん」


 僕たちは魔法忍者のいるであろう学校敷地内の森の中へと入っていく。

 すると、なぜだろうか。

 おびただしいまでの気配が、無数に感じ取れるのだ。十や二十、違う、百以上はいる気配だった。恐らく、今も魔法忍者の修行中なのだろう。


 ここで僕は、一つの噂を思い出した。

 魔法忍者になる稽古をつけてもらうためには、まず魔法忍者の先生に認めてもらうことだって。

 つまりは、向こうから仕掛けてくる。


「〈創盾レギア〉」


 人一人分ほどの大きさの盾が一瞬にして創製され、その盾は僕とアニーの背後から降り注ぐクナイの雨を防いだ。


「イージス、」

「ああ。噂通り、これが魔法忍者を教わるために試験というやつらしいな」

「では」

「ああ」

「「〈隠黙ダウト〉」」


 この魔法は自身の姿を隠すことができる魔法である。さらには同じ魔法を使っている相手の姿を視認することができる魔法。

 僕は前方へと目を向けるが、どこにも人影は見当たらない。後ろにも、上にも、どこにも誰もいない。ということは、恐らく魔法を使っていない!?


「アニー。もしかしてだけど」

「恐らくそうだろう。相手は魔法を使っていない。だが、私たちが使ったことで初めて魔法を使うのだろうな」


 魔法を使わずとも姿を視認させない回避能力。

 どうやらこれは、一筋縄ではいかないらしいな。


「ではこちらから仕掛けるぞ」

「ああ」


 僕とアニーは全身に風を纏わせ、たとえクナイが飛んでこようとも弾き返せるように準備を整えた。とはいっても、魔法をいつまで持続できるかが勝負の鍵だ。

 二つの魔法を同時に使うのは、魔力の消費が著しい。だからこそ短期戦に賭けるしか、


「今だ。捕らえよ」


 突如木の中から飛び出してきた無数の人影。その人影は僕とアニーの頭上へ出た瞬間、両手を地面へとかざした。


「「「「〈土操ドーマ〉」」」」


 土は突如うねりを上げ、僕たちの逃げ場をなくすかのようにして周囲を覆った。ドーム状に形成された土の中に、僕たちはいとも容易く囚われた……わけではなかった。


「〈風渦リーズ〉」


 突如、無数の人影の頭上から風の渦が吹き荒れた。その渦にのまれ、人影は皆地面へと叩き落とされた。

 その人影の頭上にいたのは、土の中に囚われていたはずの僕とアニーであった。


「いつの間に!?」

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