第67話 カレーライス
クイーンが母であるアイリス聖のもとへ帰ってから既に一週間が経っていた。だがしかし、未だにクイーンからの返事はない。
イージスは姉であるムラサキと、とある策を考えていた。
「もしかしたらアイリス聖は悪い親ではないのかもしれない。だから一度クイーンを家へと帰す」
「でも……」
「最後まで話を聞け」
ムラサキは焦るイージスの口元を人差し指で塞ぎ、言葉を紡ぐ。
「だがアイリス聖が本当は悪いことばかりする親だったとする。その場合は、クイーンにこの魔法学園の手帳を使って助けてほしいち連絡してもらう」
ムラサキは既にヴァルハラ学園を卒業している。だからこそ、既に手帳はいらないのであった。
その手帳にはいくつか能力があるが、その内の一つに名簿に登録してある人と連絡をする機能がある。メールを送るなり、電話をするなり様々だ。
だがしかし、結局クイーンからの連絡はない。
実家で悠々と過ごしていたイージスは、授業が終わるとすぐに手帳へと視線を移すが、クイーンからの連絡は一向になかった。というより無さすぎた。
「クイーン……」
「イージス。どうしてそんな浮かない顔をしているんだ?」
アニーは机で体を倒して寝ている僕に、そう聞いた。僕は寝起きのようにゆっくりと顔を上げ、そしてアニーへと視線を移した。
「何でもないよ。ただ少し考えすぎだっただけ」
(やっぱクイーンのこと考えているのかな。確かに、クイーンがいなくなったら少し寂しい気がするもんね。私が頑張らなくちゃ)
「イージス。そろそろ帰ろ。寮に」
「あ、ああ。そうだな」
いつもなら帰ればクイーンがいただろう。だけどもう、クイーンはいない。普通だった毎日が、なぜかとても悲しく感じてしまうのはなぜだろうか?
いや、これが普通だったんだ。
そうだ。ちゃんと前を見ないと。
「アニー。今日の晩御飯は僕が作るよ」
「いやいや。今日の当番は私だし、私が作るよ」
「大丈夫だから。僕に任せてくれ」
僕はそうアニーに言い聞かせ、イスターが掃除をしている最中の僕たちの寮へと戻っていった。
「二人とも。お帰りなさい」
「ただいま。イスター」
「イスター。今日はイージスが料理作るらしいから、二人でトランプでもして遊んでようよ」
「分かりました」
イスターは掃除機に変えた両手を人間の腕へと戻すと、アニーとともに机一つ挟んでトランプで遊んでいた。だがどういうわけか、イスターの隣にクイーンの姿を見てしまう。
「わあ凄い。イスターお姉ちゃんの大勝利じゃん」
「プログラミング通りです」
「もう、イスターずるいって。次はプログラミングとかなしだぞ」
いつもならそこで、三人が笑い合って遊んでいたはずなのに。
「どうかした?」
「あっ、いや。なんでもない」
僕は気を取り直して料理へと励む。
そしてカレーを作り終えた後、スカレアとブックがそれぞれの魔法職から帰ってきた。
「今日はカレーか……ってことはイージスが料理当番か」
「スカレア。カレーには栄養がたくさん含まれているんだぞ」
「なわけあるか。あれのどこに栄養がある」
とまあいつものようにスカレアとブックは楽しそうに討論し合っている。
全く、魔法職で相当しんどい訓練を受けただろうに、彼らは元気が有り余っているものだ。
僕は元気な二人の横を通りすぎてカレーを運んでいると、そのにおいに吸い寄せられてかスカレアとブックは自ずと僕の後をつけている。僕はカレーを机の上に置き、皆は椅子に座る。
椅子は六席分あるが、端にある椅子は一つ余っている。
「いただきます」
「ごちそうさま」
「はや!」
とまあ、いつも通りに日常を送っているのでした。
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