第61話 魔法試験最終日

 続いての試合は、イージス対一年C組のアリエス=ウェリアとの戦い。


「では、始め」


 この戦いはどちらが先に魔法を展開できるかが勝敗の要である。

 アリエス=ウェリアは開始早々、直ぐ様イージスに手をかざした。だがそれと同時、イージスはアリエスへと手をかざす。


「「〈追風エア〉」」


 両者とも同じ魔法を放った。

 風が彼ら二人が形成した魔方陣の中から出現し、風同士がぶつかり合って空気中に飛散する。

 魔方陣を創る上ではイージスの方が早かったものの、そこから魔法を放つまでの時間ではアリエスの方が上をいっていた。

 直ぐ様二人はお互いへ手をかざす。だが先に魔方陣を展開したのはアリエスであった。


(まずい。このままでは確実に魔法をくらう)


 アリエスが形成した魔方陣から魔法が放たれた瞬間、イージスは低姿勢で側面へと駆け、そして移動しながら魔方陣を形成して風を放つ。


「早い……」


 アリエスも直ぐ様移動するが、足に風をくらって体が浮き上がった。その瞬間を見計らい、イージスは宙へと浮くアリエスへと両手をかざす。


「〈重風ドドンパ〉」


 重たい風がアリエスへと直撃し、アリエスはそのまま場外へと吹き飛んだ。


「勝者。イージス」


(なるほど。この程度が僕の実力か。案外、弱いものだったのだな……)


 彼は自分の弱さに浸っていた。

 何が彼をそんなに辛くさせるのか、その答えは未だ不明のままである。


 続いての戦いへと移る。

 二人の生徒が会場へと上がる。


「では、続いてはスカレア対ピットの戦いです。開始」


 スカレアは木刀を握りながらピットへと駆け抜けた。ピットはスカレアが近接戦闘以外は苦手なのだと見破り、両手をスカレアへとかざす。


「〈氷錠ザグマ〉」


 氷がスカレアへと絡み付く。だがスカレアは身軽な動きでその氷をかわし、着地してピットの背後へと回り込んだ。


「まず一撃」


 風を纏った木刀での一撃がピットへと入る。すぐさまピットはスカレアとの距離を取る。だがスカレアから離れることはできない。

 自分の動きについてくるスカレアに焦りを感じ、ピットの攻撃は単調になっていく。


「くそ……」


 ピットは何度も風を放つが、その度にスカレアは避けてピットへと木刀を振るう。その攻撃を一度くらい、後がなくなったピットは、背中から羽を生やし、飛んだ。


「光属性魔法〈光羽ホーリー〉。俺は光属性の魔法が得意だ。そそて魔法とは、一瞬にして相手に攻撃することが可能なんだ」


 ピットは両手をスカレアへとかざす。

 上空にいるピットに何もできないスカレアは剣を盾のように構えた。


「無駄だ。〈追光ラア〉」


 光がスカレアの脇腹へと直撃した。スカレアはその一撃に膝をつく。


「もう一度」


 次はスカレアの足に光が直撃する。それにスカレアは痛みを感じ、立ち上がろうにも限界が来ていた。


「とどめだ」


 ピットはスカレアへと光を放つーーだが、


「弾いた!?」


 スカレアは光を見るわけでもなく、ただ感じて木刀で弾いた。その一瞬に、ピットはただ驚くしかなかった。


「光属性。その魔法を一年生で使えるのはお前だけだろうな。だがな、それは僕にとっては簡単に覆せる差なんだ。だから僕は、まだ立てる」


 スカレアは木刀をピットへと向けた。


「〈追風エア〉」


 風がピットへと吹く。ピットはすぐに高度をあげて避けるが、何度もスカレアは風を放ってくる。


「なるほど。最低限度の魔法は使えるか。ならば、」


 ピットは風を避けつつ、スカレアへと光を放つ。

 スカレアは飛んでくる光を剣で弾きつつ、空を駆けるピットへと風を放つ。一進一退の攻防が繰り広げられ、両者の身体能力がとわれる戦いとなっていた。


「まだだ。まだ戦える」


 スカレアは息をきらしながらも、木刀で光を弾きつつピットへと攻撃を仕掛けていた。だがさすがに限界が来ていたのか、スカレアの動きは鈍くなっていた。

 乱雑に動き回る中、額から流れた汗が目にしみる。スカレアはその瞬間に視界を奪われ、光を腹に受けた。スカレアは宙へと吹き飛び、地面に転がった。


「ま……けた…………」


 スカレアは空を仰ぎ、敗北の余韻に浸る。

 魔法試験三日目が終わり、スカレアは校舎の屋上で空を眺めていた。


「ああ。僕はやはり、強くはないのだ。魔法など、向いていないと解っていたのに。僕には……魔法は向いていない」

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