第60話 魔法試験三日目

 魔法試験三日目。

 今日は最後の試験であり、そしてその内容は戦闘である。

 何をするか?それは言葉通り、戦いをするのである。では一体誰と?それは当然、生徒同士で。


「まずはスタンプとクロウドマンだ。ルールは殺傷能力のある魔法は使用不可。勝利条件は先に相手をリングの外から出す、もしくは相手に魔法を三度当てた者の勝利とする。では始め」


 ここは戦闘用に創られた体育館。

 魔法によって形成された一つのリング。そのリングの上で、二人の男が立っている。

 一人はメガネをかけ、青色の本を持っているブック=アカシック。対して彼の前に立つは、拳を構え、爪を強調しているクロウドマン=ウィング。だが爪は律儀に切られている。


「殺傷系の魔法が使えないのは残念だが、勝つのは当然クロウドマンだ」

「おいおいクロウドマン。違うクラスだから知らないとは思うが、俺の魔法展開速度は一位だ。そんな俺に勝つと?」


 ブックは強気であった。


「なら、やってみろ」


 クロウドマンは低姿勢でブックへと駆ける。そしてブックの手前へと来た瞬間、足を止めて拳を振り上げた。


「無駄だ」


 クロウドマンの振るった拳はブックへ当たる寸前で何かに衝突して跳ね返った。


「何だ!?」

「風属性の魔法で弾き返しただけだ」


 クロウドマンは後方へと距離を取り、拳を握る力を弱めた。


「あと二度魔法を受ければ敗北だな」

「そう簡単にいくと思うなよ」


 クロウドマンは何かひらめいたのか、笑みを浮かべた。


「〈風錠エニグマ〉」


 ブックの体には風が鎖のように纏わりつく。


「どうだ?この魔法は一度捕まれば動くことのできない束縛系魔法。あと二度魔法を受ければ、お前の敗けだな」


 クロウドマンは勝ち誇ったかのような笑みを浮かべる。

 だがしかし、ブックを束縛していた鎖はいとも容易く風となって消えていった。その現象に、クロウドマンはただ驚くのみであった。


「おや。その様子では知らなかったようだな。この魔法は〈纏風オートラ〉という魔法で簡単に防げる。この魔法は体に風を纏う魔法だ。つまりはその程度の魔法を攻略することなど簡単なんだよ。この程度のこと、授業を受けていれば解るだろ?これが授業を受けている者と受けていない者との差だ。思い知ったか」


 それを周りで聞いていたイージスとアニーは、ただただ感心していた。


「なあアニー。そんなこと知ってたか?」

「いや……。そんなこと習ってないはずだけど……」


 カーマ先生も、そんなことは教えていないと首を振る。


「ではクロウドマン。もうそろそろ終わりにしよう」


 ブックは全身に纏っていた風を手へと集中させる。そしてそれを大きく振り上げ、クロウドマンを威嚇する。さすがに足が振るえ、クロウドマンは自分から場外へと出た。


「勝者、ブック」

「弱すぎて話にならんな。本でも読んでいた方が退屈しない」

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