第52話 始まる囁き

 とある村の中で、アニーとイスターは途方に暮れていた。

 村に来たはいいものの、結局イージスを探すことはできない。森の中へ入りたい気持ちはやまやまであったが、入ることは許されない。

 少ない金銭で止まったおんぼろの宿の中で、アニーは言葉を発した。


「この村、発展しすぎているな」

「そうだね。村全体を十メートルはある柵が覆っていて、モンスターから攻められても大丈夫なように常に兵が見回りをしていた」

「恐らく、あの時あの狼がイージスを襲ったのはこの村の者がモンスターを刺激したからだろうな」


 二人は既に理解していた。

 この村が常に何かを警戒しているのを見れば、この村がモンスターを襲ったことなど容易に察することができる。


「イスター。この村について探ろう……」


 その時、扉は破壊された。

 おんぼろの宿であるのだから、蹴りの一つで吹き飛ぶのは別におかしなことではない。それに音が漏れているのもおかしなことではない。おかしなことと言えば、アニーたちを襲おうとしていることだ。

 向けられる敵意に、アニーは気づいていた。


「お二人さん。静かに俺たちについてきてくれないか」

「さすがにまずいな……」


 出口には全身を鋼の鎧で覆った四、五人の兵。恐らくこの村の兵士なのだろう。


「アニー。ワタシ、あいつら倒す」

「駄目だ。容易に刺激してはこの村の連中と一緒だ。今は逃げるしかない」


 そう話している間にも、男は部屋の中へと歩み寄ってくる。


「逃がすと思うか?」


 男は唯一の出口であった窓へと手をかざすと、窓は素材を変えて硝子から鋼鉄に変化した。


「おやおや。私たちが窓から出るとでも?」


 そう微笑み、アニーは魔法で周囲に煙をまいて男たちの視界を塞いだ。そしてその隙におんぼろの壁を破壊し、煙とともに外へと逃げる。


「エクイオス隊長。このまま逃がすのですか?」


 兵の一人が男へとそう問う。


「何を言っている。あの女二人をこの村から出すかよ。村全体に包囲網を引け。誰一人として村からは出させるな。そして二人を見つけ次第、殺せ」


 男は悪魔のように微笑んだ。手に持っていた槍を振るい、おんぼろの宿を破壊して空いた壁から目の前の家の屋根へと飛び移る。


「さて。久しぶりに楽しい狩りになりそうだぜ。しっひっひ」


 男の笑い声が響く中、森の方からは無数の足音がだんだん村へと近づいていた。空を飛んでいた鳥たちがその音に逃げ、木が踏み倒され地面はどろどろに。


「目標が見えてきた。あの村を破壊し、モンスターの力を思い知らせてやれ」


 黒丸が先陣を行き、地を蹴って村へと進む。

 その頃、一人の兵が何かが近づいているのに気づいた。


「あれは一体…………おいおいおいおい、モンスターの、群れ!?」

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