第51話 憤怒

「この森について?」

「ああ。もうじきこの森は滅んでしまうだろう」

「……え!?どういうことですか?」

「そのまんまの意味さ」


 黒丸は平然と答え、言葉を紡ぐ。


「この森には石碑が飾られていてな、そこには我々森に棲み着いていた一族にしか解らない言語があるんだ。そこにはこう書かれている。もしこの森の空から満月が見える暦に一人の少年が現れたのならば、それはきっとこの森が終わる予兆である」

「一人の少年?」

「それが君だよ。あいにく今日は満月で、そしてお前はこの森へとやって来た。何の因果かは解らない。それでもきっと、この森は終わってしまうのだろうな」


 虚ろな表情を見せる黒丸。

 本当にこの森が終わってしまうのだろうか?だとしたならば、僕はこの森を救えるのだろうか?

 ーー解らない。

 いつだって、答えを知っている者は少ないのだから。だから僕は時の流れに沿って進むしかないんだ。


「敵襲。敵襲」


 突如、そんな叫び声がどこかから上がった。


「少年。俺の背中に乗れ」

「分かった」


 僕が黒丸の背中にのると、黒丸は足を進めてその声が聞こえた方へと駆け抜けた。声の大きさからして相当遠くにいることは間違いないだろう。だが五秒と経たずに黒丸はその場所へとついた。

 そこには多くのモンスターが集っていた。彼らが見つめる先は見えなかった。すると黒丸は足を進めた。


「おいお前ら。退いてくれ」


 モンスターたちは黒丸へと道を開けた。そこで黒丸と僕が見たのは、肩を矢で貫かれているリーフの姿であった。


(どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして……どうして)


 黒丸は殺気を纏い、真夜中に吠えた。黒丸の遠吠えは森全体へと響き渡り、木々が揺れ、地面が動く。


「黒丸……待て」


 肩を押さえつつ、リーフは黒丸へと話しかける。


「大丈夫だ。私は全然大丈夫だから。だから争わないでくれ……」

「リーフ。仲間の仇を討てないだなんて、それは俺が最も嫌うことだ。リーフ、今まであの村の連中に何度も仲間を殺されてきたんだ。今ここで奴らの仇を討てなければ、奴らが成仏してくれんだろ。だからぁぁあ、行くぞぉぉお、お前らぁぁあ」


 黒丸の問いかけに、その場にいた全てのモンスターは答えた。


「少年。君は降りてリーフを護ってくれ」


 僕は何も言えず、黒丸の背中から降りてリーフのそばへと歩み寄った。


「護ってくれよ。少年」


 そう僕に優しく言うと、黒丸は鋭い牙を震わせて地上を勢いよく走り抜けた。それに連なって森中のモンスターが一つの方向へと向かっていた。

 それはまさに、モンスターの百鬼夜行であった。


「イージス……私はこれ以上仲間が死ぬのは見たくないんだ……。だってそれはとても苦しいことであるから。それはとても痛いことであるから」


 リーフは肩に刺さった矢を抜き、ゆっくりと立ち上がった。


「イージス。私とともに戦ってくれるか?」

「はい。喜んで」

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