第50話 森を越えて

 僕たちはとある村へと向かっていた。だがその村へ行くためには、どうやら崖を進む必要があるらしい。森の中を進むのが最も速いのだが、あの時の少女に言われた通りにしなくてはな。


「イージス。にしてもさ、この崖でもしモンスターが襲ってきたら、対処しようがなくない?だってこの中の誰も飛行系の魔法は使えないわけだし。もし落ちたらほうきを取り出す前に落ちるだろうし……」

「ならば感知魔法使いながら進もう」


 無属性原始魔法弐零〈超感察ステイター

 この魔法は最大半径百メートル以内の動くものを察知することが可能である。だが神経が削られ、あまり長時間は使えない魔法でもある。


「じゃあ行こう」


 たとえ魔法で周囲の様子を観察できようとも、油断などどてはならない。そう思っていた矢先、崖の上から何やら音がし始めていた。

 僕たちは自然とその方向を向いた。そこには、一匹の巨大な銀色の狼がおり、その背後には無数の銀色狼がこちらを見ていた。


「ほうきを出せ」


 アニーはほうきを取り出し、後ろにイスターを乗せた。僕もすぐさまほうきを取り出したが、突如狼は遠吠えをし、耳を塞いでいる間にも狼の群れが襲いかかってくる。


「崩れろ」


 僕は崖へと手をかざし、足場を崩した。だがそれが間違いだった。

 とっさのことで後先など考えられず、崩れた土片が僕の方へと落下する。その土に押し込まれ、僕は崖下の森の中へと落ちていく。


「イージス」


 最後にアニーの声が響き、僕は丁度真下にあった川へと落下した。

 目を覚ますと、僕は川から投げ出されていたらしい。寝ぼけた顔で周囲を見渡し、僕は聞こえてくる水の音に吸い寄せられるように足を進める。


「はぁぁ。どうすればいい?私はどうすればいいんだ」


 その声は、最近どこかで聞いたことのあるような声であった。僕はその正体を探しに足を踏み出すと、石を踏んだ音に反応したその声の主が驚いた顔でこちらを見た。


「リーフ!?」


 彼女は水浴びをしていたのか服など着ておらず、体を腕で隠していた。


「貴様ぁああ」


 その直後、僕は背後から近づいてきた狼によって気絶させられた。

 再び目を覚ませば、そこはモンスターの群れがいる洞窟の中であった。


「ここは……どこだ?」


 体下にはわらがひかれており、僕が起きるとモンスターを操る少女ーーリーフが心配そうに僕へと歩み寄ってきていた。


「ねえ少年。どうやら白丸たちに襲われたようだが、大丈夫だったか?」


 リーフの背後には僕を襲った狼の筆頭であるひときわ大きな狼がいた。


「特にケガはしていない。大丈夫だ」

「そうか。なら良かった。ところで少年、君の名前を教えてくれ。呼ぶ時に少年じゃ、誰を差しているか分からないだろ」

「僕はイージスです。よろしく」

「私は前にも名乗ったがリーフだ。この森の主でもある。よろしくな」


 意外にも温厚なリーフの性格に、僕は多少驚いていた。

 リーフは白丸という名の狼の頭を撫でると、狼は嬉しそうにしてそのままどこかへと走り去った。


「イージスはしばらくここにいてくれ。私は行かなくてはいけない場所がある」

「う……うん」


 一体どこへ行くのだろうか?

 少しは気になるも、周囲にモンスターがいる以上はここから出ることは不可能だろう。


「イージスと言ったな」


 そう言いながら歩み寄ってきたのは、一角を額に生やした黒い羽毛の狼。ってか、狼が喋った!?


「俺は黒丸。リーフについて、いや、この森について話がある」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る