第47話 不器用な父へ
試合も終わり、会場の外でスカーレットは夕焼けを眺めていた。
「スカーレット。最後のはいい技だった」
サンダーは花壇に座っているスカーレットの隣へと座る。
「結局負けちゃったけどね」
「だけど解っただろ。小細工なんかをして勝つよりも、正々堂々と戦って負けた方が、何百倍も楽しいんだって」
サンダーの笑顔は、まるで無邪気な子供のように、その楽しさを教えてくれている。
「サンダー。来年、ボクは優勝するよ。だから今度は魔法剣士頂上祭でまた会おう。その時は、ボクは今より何百倍も強くなるからさ」
「ああ。頑張れよ」
サンダーはスカーレットの笑みを見て安堵した。
(きっとスカーレットは良い魔法剣士になれるだろう。きっとまたいつか大会で出会えたのなら、その時は正々堂々と戦おう。スカーレット=ナイトメア)
「じゃあボクは先行くね」
「どこに行くんだ?」
「向き合ってみることにしたんだ。父さんと」
スカーレットは躊躇いつつも、「父さん」という言葉を発した。もうそう呼ばないでおこうと決めていたはずのスカーレットはサンダーとは目を合わせられず、照れて遠くの方を見る。
「今のスカーレットなら大丈夫だな。頑張れよ」
「うん。けどやっぱり怖いかな……」
スカーレットは笑みで無理矢理隠そうとしていた不安を露にした。
「大丈夫さ。だってスカーレットは自分自身に向き合えた。ならもう誰とでも向き合えるだろ」
「でも……」
「自分自身と向き合える人間はそういないんだよ。どれだけ世界中を探しても、自分自身と向き合えるのはほんの一握りの存在だけ。だからさ、悩まもうと、不安になろうと、自分自身に向き合えたのなら、きっと何にでも向き合える。だから自信を持て。それが自分自身に向き合えた者に与えられる報酬なのだから」
サンダーは優しくスカーレットの頭を撫でる。
「頑張るよ。ボク」
スカーレットは魔方陣を創製し、その中からほうきを取り出した。
「また会おうね。サンダー」
「ああ。その時は一戦でも交えよう」
「楽しみにしてるね」
スカーレットはほうきに乗り、夕焼けの中を進む。
緋色に輝く太陽の光を浴びながらも、スカーレットは胸を張ってナイトメア家の門をくぐる。
(解っている。ボクが必要とされていないんだって。それでもボクは、もう逃げたくないんだ。これ以上苦しみたくないんだ。だからちゃんと成し遂げるよ。ボクは、もう一人じゃないから)
「父さん」
扉を開け、ボクは父さんのいる書斎へと入った。案の定、父さんは椅子に座って本を読んでいた。
父さんはボクに気付くと本を閉じ、ボクへと視線を移した。
「何のようだ?」
「父さん。ボクは立派な魔法剣士になりたいんだ。誰もが認めるような、皆から愛されるような、そんなかっこいい魔法剣士にボクはなりたい。だから……ボクは魔法学園に転入するよ」
その言葉を聞き、父さんはなぜか笑った。にやつくような笑みを浮かべ、本を置いてボクのもとへと歩み寄って来た。
「スカーレット。今まですまなかったな」
そう言って、父さんはボクの頭を優しく撫でた。とても温かいその感触は、今まで味わったことのないものであった。
「今まで一人にさせてごめんな。寂しい思いをさせてごめんな。苦しい思いをさせてごめんな。俺が父親で、ごめんな」
「そんなことない。ボクは父さんが父さんだったから強くなれた。父さんが父さんじゃなかったらボクはこんなにも強くなれなかった。父さんが父さんだったから……ボクは頑張って生きてこられた」
なぜだろう。
今まで憎んでいたはずの父さんを、ボクは好きになっている。
これは心の奥底の声なのだろうか。
「ありがとう。スカーレット」
父さんはボクを抱き締めてくれた。
その不器用な腕で。それでも温かい腕で。
初めて父さんがボクを大切にしてくれていることを知った。初めて父さんがボクに愛情を注いでくれていたことを知った。初めて父さんが優しい人なのだと知った。
「父さん。大好きだよ」
「スカーレット。俺も大好きだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます