第45話 それぞれの花
誰も巨大植物を止める者はいない。
そんな矢先、一人の男は全てを察知し、《百面牢獄》から飛び出して魔法剣士祭の会場へと転移した。
その会場の光景を見た男ーーノーレンス=アーノルドは、すぐさま会場の中へと走るが、それを一人の男が止めた。
「何をする?ダーキング=アークエンジェル」
そこにいたのは四大魔法堕天使の一人ーーダーキング=アークエンジェルであった。
だがノーレンスには解らない。なぜこの男が自分を止めるのかを。
「ダーキング。お前がこの巨大植物の原因か?」
「それは違う。これは全てオウルとかいう罪人がやったことだ」
「じゃあなぜ……」
「見たいんだよ。こんな状況になった時、あいつは何をするかをな」
ダーキングは会場へと視線を移す。
その頃、会場内で体を巨大植物へと囚われたスカーレットは悩んでいた。
「スカーレット。この状況を回避できるのはサンダーだけなんだ」
巨大植物は動いていない生物には攻撃しない。その特性を知っているからか、サクヤはサンダーを地面に置き、微動だにせずスカーレットへと話しかける。
「ボクはこれでいい。どうせ世界は優しくないのだから」
スカーレットはそう言うと、脱力した。
もう全てどうでもいいと、そう自分に言い聞かせ、スカーレットは黙り込む。
「スカーレット。お前がどんな事情でこんなことをしているか私には解らない。解らないさ。でも、こんな形で掴んだ勝利に、誰もが憎むこの勝利の形にお前は満足できるのか?」
「うるさい」
スカーレットはサクヤを黙らせようとするも、サクヤは言葉を続ける。
「憧れるのはいいさ。でも、こんな形で理想を形にしたって、誰一人としてそれを心から喜ぶ人間なんていない。偽りの勝利に喜べるか?偽りの自分に喜びを生み出せるか?そんなの無理だろ。だって私たちは一人の人間さ。だというのに、なんでお前は解らないんだ」
「解っているさ。ボクがしていることは悪だって。けど、それでもボクは認められたい。誰かに見てもらいたい。誰かに褒められたい。ボクは、誰かに……」
泣きそうな声だった。
苦しそうな声だった。
寂しそうな声だった。
「スカーレット」
「優しい……声?」
「悪いことには手を染めてはいけない。たとえどんな理由があろうと、その道は意味がないのですから。何か自分で成したいのなら、何かを自分で極めたいのから、正しいと思った道を進めばいい。そうしたらきっと、良い友に巡り会えるはずだ」
どうしてか、彼女の声は温かい。
彼女の声は、ボクにちゃんと向いていた。彼女はボクを見てくれていた。初めて、叱られて良かったって思ったよ。
「呪い、解除」
呪いは解かれた。
だがスカーレットと話していたサクヤに巨大植物たちは気づき、根がサクヤへと絡み付く。だがその寸前、根は粉々に斬り刻まれた。
そう、彼女の英雄が起きたのだ。
「待たせたな。サクヤ」
剣を構えるサンダー。
その背中を見つめるサクヤは安堵する。
「雷鳴万歩」
一瞬にして根は粉々に斬り刻まれ、そして宙に待ったサンダーは根が伸びているであろうその元凶たる部屋へと駆け抜けた。雷の速さで移動したサンダーは、まばたきすらせずにその部屋へとついた。
だがその部屋には、体から根を生やしているイージスの姿があった。
「これは……どうすればいいんだ」
雷鳴のような速さを有するサンダーの動きは、今初めて止まった。
サンダーは剣を握る力を失い、何もできずに呆然とするのみであった。
ーー何もできない。
そう悔やむサンダーの前に、一人の少女は現れた。
「大丈夫です。私がイージスから根を取り除きますから」
その人はまるでユリのような、そんな優しい人だった。
「私はノーマン=ユリって言います。一度イージスには助けられたことがあるから、今回は私が彼を助けたいんです。だから任せてください」
ノーマンはイージスの心臓部へと両手をかざすと、種のような何かがイージスの体を突き破って現れた。
「これが全ての元凶です。サンダー、これを斬ってください」
「どうして名を?」
「当然じゃありませんか。イージスは言ってましたよ。金髪で最初は怖い人かなって思ったけど、優しい人に剣を教わったって。そしてあなたを見てすぐに解ったんです。イージスの剣の師匠は、あなただって」
サンダーはつい頬が赤くなる。
「まさか……イージスがそんなことを思ってくれていただなんて。まあ、怖かったっていうのは確かにそうだけどな」
「重要なのは見た目じゃなく心です。薔薇だって見た目はあんなに美しいのにトゲを持っているんです。それと同じで、内面を見ないと何も解らない。結局、それが答えなんですよ」
ノーマンの言葉に心を動かされたサンダーは、静かに剣を握った。
「お願いします」
ノーマンは種を投げた。それと同時、サンダーは剣を振るう。剣の軌道上にあった種は粉々に砕け、会場を覆っていた根は消え失せた。
会場の外にいるノーレンスとダーキングは、会場を覆っていた根が消えたことに安堵する。
「ダーキング。予想通りだったか?」
「いいや。当然予想外さ。俺の今までの教育を全て無視した結果をあいつは出した。これが成長か」
「当然だ。子供の全てが親ではない。多くの人と触れ合って、成長するのが子供である。だからその分、親は子へ愛情を注ぐ。そうやって人は成長する」
ダーキングは笑い、頭を抱える。
「相変わらずあいつは、成長したな」
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