第44話 紅の花

 スカーレット=ナイトメア。

 彼女は火炎に剣を纏わせ、巨大植物を燃やそうとするもどうやら火炎は効かないらしい。それを悟ったスカーレットは、剣に火炎を纏わせるのは止め、自信へと速度強化の魔法をかける。


「今は魔力消費は最小限に。そしてこのもとを断ち切らねば、だが……どこにその元凶が」


 スカーレットは周囲を眺める。だが、一向にそのもとはどこにも見つかりはしない。


「くそ……。このままじゃ……ただ巨大植物に飲まれて終わる……」


 既に危機に陥っていたスカーレット。彼女を見つけた一人の女性は、転移して男を抱えつつスカーレットの前へと現れた。


「スカーレット=ナイトメア。今すぐサンダーの呪いを解け」


 そこに現れた女性ーーサクヤは、呪いをかけた者をスカーレットと確信し、話を切り出した。とは言っても、周囲は巨大植物の攻撃でそれどころではない。そうスカーレットは心の中で言い訳し、口を塞いだ。

 だがしかし、この状況では、サンダーがいなければ巨大植物に飲まれるのみである。


「スカーレット。お前なんだろ。サンダーに呪いをかけたのは。だったら解いてくれ。サンダーさえいれば、この状況は……」


 それでも尚、スカーレットはだんまりを決め込んでいた。

 彼女にも思いがあったから。サクヤとは少し違う、思いがあったから。


「スカーレット」

「確かに呪いをかけたのはボクだよ。けどさ、その男が剣を握ったところで、この状況が変わってくれるなんて保証はないんだ」

「この期に及んで、どうしてーー」

「ーーどうしてって、ボクだってこんなことはしたくない」


 心の内から出たどの声に圧倒され、サクヤは言葉を紡ぐのを止めた。


「ボクは父上に認めてもらいたかった。四大魔法堕天使である父上に認めてもらいたかった。けど……」


 一人の少女は過去の出来事えお脳内で回想していた。

 男と女の間に生まれた彼女の名はスカーレット。父は四大魔法堕天使と呼ばれる数少ない優れた魔法使いで、母は魔法剣士の大会で何度も優勝するなどめざましい活躍をしていた。けれど、その間に生まれたのはボクだった。何の取り柄もないボクだった。


「スカーレット。どうしてその程度の魔法が使えない」

 父上の怖い声が私の神経を粉々に砕いた。

「スカーレット。さっきも言ったろ。剣はこう握れと」

 握っているさ。でも戦いの中でずっとその持ち方なんてできるはずないだろ。

「スカーレット。竜にも乗れないのか」

 何で初めてなのに怒られるの?


 どうしてボクには才能がない?

 どうしてボクはいつも怒られてばっかなんだ?

 どうしてボクはこんなにも父上を恐れている?憧れているはずなのに、いつしかボクは家を飛び出そうとしていた。

 でも……


 父上は逃げ出すボクを見つけるや、容赦なく爆発魔法を放ってきた。爆炎にのまれて苦しむも、近くにあった池に飛び込んで死は免れる。


「スカーレット。何をしようとしていた?」

「な、なにもしてないよ」

「「嘘をつくな。お前にはお仕置きが必要みたいだな」


 大嫌いな父上だった。それでも父上の力は本物だった。

 過去の回想を思い出していたスカーレットは悪夢でも見たかのように目を見開き、弱めていた拳に力をいれて剣を強く握る。


「ボクは戦わなくてはならない。だって、英雄になりたいから」


 スカーレットは剣を構え、巨大植物の根を斬り刻む。


(父上。ボクは父上のための、強くなります)


「スカーレット」

「ボクは、」


 スカーレットは剣を振るい続ける。だが地中から伸びた根が地面をえぐりながら進み、その根はスカーレットの足に絡み付いてそのまま宙へと放り投げられた。そのスカーレットへ幾つもの根が絡み付き、スカーレットはあっという間に身動きをとれなくなる。


(ああ。どうしてボクは……弱いんだ)

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