第42話 脱走者

「おいおい。何かするらしいぜ」

「まじかよ。何だよあの男。そんなに強くなさそうだぜ」

「瞬殺だろうぜ。それより飯食いに行こうぜ」


 などと観客席が騒がしくなる中、巨大なモニターにはルーレットのように回転する文字が出現する。そしてその回転が止まるとともに、文字は「荒野」という二文字でストップした。

 先ほどまでただのコンクリートだった地面が突如揺れ出し、会場はいつの間にか砂や土でできている荒野へと変わっていた。


「イージス=アーサーVSスカーレット=ナイトメアの戦い。開始」


 試合の鐘が周囲へと響く中、スカーレットと僕は魔方陣を創製してその中から互いの剣を取り出した。


「さあ始めるぞ。殺さない程度で相手してやる」


 スカーレットが赤い鞘か紫色の刃の剣を抜くとともに、火炎が周囲へと吹き荒れる。


「行くぞ。イージス」


 スカーレットがこちらへと駆け抜ける中、僕は橙色の鞘から橙色の剣を抜き、スカーレットの剣を受け止める。

 火花が周囲へと飛散する。


「〈重火ドドンカ〉」


 突如スカーレットの剣は重くなり、僕は地面を削りながら後ろへと下がっていく。

 僕は何とか踏ん張りながらも、スカーレットの剣の重さに耐えきれず、後方へと身を投げ出した。その瞬間を待っていたのか、スカーレットの剣の刃は僕の腹へと直撃し、爆炎が放たれる。その一撃で僕は大きく吹き飛び、背後にあった岩山にぶつかった。


「さすがに強いな……。でも……」


 スカーレットは僕の首もとへと剣をかざした。


「既に勝敗は決まっている。どうする?まだボクと戦う?」

「まだ……まだあぁぁぁぁあああ」


 突如、爆発音が周囲へと鳴り響いた。それとともに、爆煙がいたるところから上がっている。それに、悲鳴をちらほらと聞こえている。

 僕たちは直ぐ様剣をしまい、周囲を警戒する。

 会場が混乱に包まれる中、アナウンスが流れる。


「会場にて爆発が発生。入り口は爆発によって封鎖されたため、観客の皆様は観客席にいたまま待機してください。繰り返します……」


 観客席にいた観客たちは、そのアナウンス通りに観客席に待機している。だがしかし、またいつ会場が爆発されるとは解らない。恐らく魔法によって起こされたことだろうが、一体誰がしたのだろう。何千といる観客の中から犯人を見つけることはほぼ不可能。


「おい上見てみろ」

「何あれ?」

「竜?」


 会場は再び騒がしくなる。その多くの視線が空へ向いていることから、僕は視界を上げて空を見た。

 するとそこには、いつか見たことがある一人の男が羽の生えた空飛ぶ花に乗っていた。


「イージス。久しぶりだな」

「お前は……密売組織のメンバーの一人、オウル!なぜここに!?」

「脱走したまでのこと。そんなことよりも、この会場の観客は全て俺の人質だ。救えるか救えないかはお前にかかっているぞ。イージス」


 悪魔のような笑みを浮かべ、オウルは嗤った。

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