第41話 彼女は咲かない

 サンダー先輩の次の試合が始まるまで残り一時間。

 それまでにサンダー先輩へ呪いをかけた者を見つけなければ、サンダー先輩は救えない。

 探すとしても、手がかりがなければ何も見つけることができない。


「イージス。私に案がある。試させて。それにサンダーの治からにぉなりたいし」


 サクヤの真っ直ぐな目に引かれ、僕はサクヤの案に乗ることにした。


「私は魔法精霊術士。つまりは精霊を操れる者。私が精霊を使って呪いのにおいの元を辿る。だからイージスには、数分だけでいいから誰一人としてこの会場から出さないでくれ」

「ああ……。解った」


 何となく返事はしたものの、どうすればいいか……だ。

 この会場の出入り口は二つだ。そこさえ塞げばいいが、どう塞ぐか?


絶対守護神盾イージス


 僕は二ヶ所の入り口に巨大な盾を創製する。

 ーーその頃、入り口にて


「ゼウシア。何か解らねーけど、入り口に変なものがあるぜ。壊すか?」

「止めておけ」


 紅の帽子、それと紅のマントに身を包んだ男は剣を抜いて盾のような何かへと斬りかかる。それをいなめるかのように、仮面をつけた男が制止する。


「まあ待て。数分待てば消えるはずだ」

「でもさー、こんなところに長居している暇はないだろ」

「大丈夫だ。転移する」


 仮面の男は赤マントの男とともにどこかへと去っていく。

 そんなこともさて知らず、イージスはサクヤが呪いをかけた者を探すのを待っていた。


「見つけた。場所は……試合会場」


 僕とサクヤはすぐさま救護室の壁につけられていたモニターを見た。そのモニターには二人の選手が剣で戦っている様子が映っていた。


「サクヤ。どっちだ?」

「解らない、けど、恐らくこの試合で勝った方が、呪いをかけた者である可能性が高い」


 僕はモニターへと視線を戻す。

 試合会場は海の上。どうやら試合会場はランダムで決まるらしく、その上を魔法を使って浮遊しながら戦っていた。

 白い剣の男は浮遊系の魔法に慣れているのか、宙をきれいに舞っている。対して紫色の剣を持った女はあまり浮遊系の魔法に慣れていないらしく、飛ぶのが上手とは言えない。


(遅いな。これなら楽勝だ)


 白い剣の男が女の心臓へと剣を進めた瞬間、女は消えた。

 試合会場は海上であるため、隠れる場所などないはず。海に潜れば失格のその会場で、女は観客席よりも高く飛翔していた。


「強敵と成り得ぬお前に奇襲など仕掛けないさ。君はボクが本気を出さなくても十分倒せる程度の剣士だからな」


 女は海上付近で浮遊している男を見ながら嘲笑うように話しかけていた。

 それに"剣士"と言われたことに腹をたてた男は剣を握り、海上から女がいる場所へと飛翔するーーが、足には水が絡み付き、動けない。


「水属性原始魔法零三〈水錠ウルグマ〉」

「くっ……」

「無駄だよ。どう足掻こうとも、剣士のお前にはこのまま上へと這い上がることはできない」


 男はそのまま海へと吸い寄せられ、足掻く間もなく男は敗北した。


「勝者、スカーレット=ナイトメア」


 彼女が……呪いの犯人なのだろうか?

 僕たちは、モニターの中で無邪気に喜ぶ彼女の姿を見て、戸惑った。

 あんなに無邪気な彼女が、本当にサンダー先輩に呪いをかけた犯人なのだろうか?


 そんな迷いを抱えたまま、僕は試合直後に一人、呪いをかけたであろうスカーレットもとへと向かった。

 彼女がいた所は会場の外の人気のない場所。噴水があり、その真横で僕はスカーレットを呼び止めた。


「誰?」


 スカーレットは警戒しているようで、剣を抜いて僕との距離をとった。

 僕はすかさず両手を挙げ、何もしないと示す。それでもスカーレットは警戒したまま、剣を構えて僕に問う。


「何の用?」

「単刀直入に聞くが、お前はこの会場に来てから誰かに呪いをかけたりしたか?」


 スカーレットは少し考えると、僕の目を睨みながら言った。


「ええ。したけど、何?」


 まるで悪気がないように言うスカーレットに動揺し、次の言葉がでなかった。


「もう行って良い?次の試合があるし」


 駄目だ。

 ここでスカーレットを呼び止めなければ、サンダー先輩は試合に参加することはできなくなってしまう。そんなことになれば、サクヤ先輩は……。


「駄目だ。呪いを解かない限りは、僕はここでお前と戦ってもいいと思ってる」


 僕が剣を取り出すと、スカーレットは口角を上げて微笑んだ。


「優勝候補のボクに勝てると思っているのかい?」

「スカーレット。お前、何の呪いをかけた?」

「そのくらいは教えてあげるよ。僕がかけた呪いは〈眠りの呪い〉。その呪いはどんなに攻撃を浴びさせられようとも、起きることのない呪い。だから君が救おうとしている奴は、ずっと寝たまま起きることはない」


 スカーレットは何も感じていないのか、申し訳ないなどという感情を一切見せずに僕にそう言った。それは僕の神経をくすぐる。


「スカーレット。決闘だ。僕が決闘で勝ったら呪いを解け」

「じゃあ私が勝ったら言うことなんでも聞いてもらうよ」

「構わない」

「じゃあ決定だね。今会場でやってる試合が終わったら休憩タイムが入って会場は空く。だからそこを使って勝負しようか。会場はもちろんランダムね」


 なぜこの女はこんなにも楽しそうなのだろうか?

 一人の魔法剣士の未来を奪うことに、何の意味があるのだろうか?


 ーーボクは勝たなくちゃいけない。どうしても勝たなくてはいけない。

 ここで勝たなければきっとあの人は認めてくれないから。ここで優勝しなければ、あの人は一生ボクを見てはくれないから。

 だからボクは、何をしようともこの戦いで優勝する。

 この戦いで何を犠牲にしようとも、ボクはこの男を倒し、そして優勝する。

 そのためには、傷害となる者は一人残らず呪いで動きを封じる。


 優勝候補はサンダー=ライデンのみ。あとは弱者だけ。

 この戦いは、ボクが制覇する。


 スカーレットは剣を握り、会場へと姿を現した。


 ーーそしてイージス=アーサーVSスカーレット=ナイトメアの戦いが幕を開けた。

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