第38話 おかえりなさい

 目の前にいたのは、魔葬巨悪魔ゴ・ゴーレムと呼ばれるダンジョンに生息するはずのモンスター。

 だが僕が転移先に指定したのはスタンプ=キャットスターだったはず。それがなぜかモンスターの目の前に転移している。


「イージス!?」


 その声がしたのは、天井。

 広く、そして天井が高いこの部屋の真上には、スタンプが宙に浮いている檻の中に囚われていた。


「イージス。どうしてここへ!?」

「お前を救い出す以外に、理由はいらない」


 僕は鞘を投げ捨て、剣を構えた。

 目の前にいるのは体長十メートル以上ある巨大な化け物。体は黒鉄やダイヤモンドなどの鉱石で創られており、巨大な二足を巨大な二腕から繰り出される攻撃は、とても凄まじいものであるのは確かだろう。心臓部には弱点なのか、赤い宝石が突き刺さっている。

 僕は手に汗を握りながらも剣を構え、魔葬巨悪魔ゴ・ゴーレムの前で立つ。


「ヴォオヴォオオオオオオ」


 魔葬巨悪魔ゴ・ゴーレムから振るわれた巨腕。その巨腕を剣で受け流し、がら空きとなった魔葬巨悪魔ゴ・ゴーレムの腹へと飛び込むも、蹴り飛ばされて壁へ吹き飛ぶ。意識が飛びかける直前で体勢を立て直し、壁に足をついて再び魔葬巨悪魔ゴ・ゴーレムへと飛びかかる。


「ははぁぁあ」


 剣は魔葬巨悪魔ゴ・ゴーレムの腕へと直撃するも、その固さを貫通することができない。

 身を翻して魔葬巨悪魔ゴ・ゴーレムと距離をとり、魔葬巨悪魔ゴ・ゴーレムの背後へと回り込む。だが、魔葬巨悪魔ゴ・ゴーレムは軽快な動きで振り返り、巨大な拳が体へ直撃する。


「うっ……」


 悶絶する痛みが全身を襲い、僕は地面にめり込んで血反吐を吐いた。剣を握る力さえ失い、倒れたまま何もできず、ただそこを寝床として眠る。


 かなわぬ敵は目の前にいた。

 圧倒的すぎる高みがそこにはいた。

 高すぎる壁を前にして、魔法がなければ無力なのだと思い知った。

 どうしようともかなわない。どうしようとも救えない。

 でもここで倒れたままなんて、誰が許してくれるだろうか?


「イージス。俺は悪いことをした。捕まって当然だ。お前がそんなに怪我を負ってまで、俺を助ける理由なんてーー」

「ーースタンプ。僕は、友達が苦しむ姿は見たくない。だからぁぁあああ、お願いだ。自分を嫌いになるな。ブラックキャットの姿が嫌いでも、お前は自分を嫌いになるな。たとえ今までの行いが罪だったとしても、これから償えばいい。だからさ、希望をもて。スタンプはそれが許される人だから」


 倒れたままではいられないんだよ。

 負けたままではいられないんだよ。

 友一人救えないで、モンスター一匹も倒せないで、誰かを救うなんて、できやしない。


 いつの間にか、僕は剣を強く握っていた。

 一筋の閃光が見え、僕は咄嗟に起き上がって前方へと駆け抜ける。と、その直後、後方では巨大な爆発が起き、爆風に足をすくわれて魔葬巨悪魔ゴ・ゴーレムの心臓部へと吹き飛んだ。


「友一人救えないのは、嫌なんだぁぁぁあ」


 僕は剣を両手で振り上げ、魔葬巨悪魔ゴ・ゴーレムの心臓部である赤い宝石へと剣を突き刺した。


「はあああぁぁぁぁぁぁあ」


 赤い宝石は砕け、それとともに魔葬巨悪魔ゴ・ゴーレムの体はまるで砂粒のように風に流されて消えていく。

 頭上では鎖が解けたような音が響き、それとともにスタンプを捕らえていた檻は消失していた。


「イージス」


 僕は既に体が悲鳴を上げ、どうにも自分では動かせなくなっていた。だが振り絞った力で一枚の札を取り出し、スタンプへと腕を伸ばす。

 スタンプは僕の手を握った。


「イージス。助けてくれて、ありがとう」


 友の笑顔が見れただけで、もう大満足だよ。

 スタンプ=キャットスター。おかえりなさい。

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