第34話 占いの札

「クイーン。どうしてここに?」

「魔法でイージスのいる場所まで飛んできたんだよ」

「けど……ここでは魔法が使えないはず……」

「じゃじゃーん。レンタル魔法だよ」


 クイーンは満面の笑みで手にしている札を僕に見せつけてきた。


「レンタル魔法?」

「うん。これは私が創った魔法でね、この札に魔法を込めることで、魔法が使えない人でも魔法が使えるようになった画期的な発明なんだ」


 でも魔法は魔法。

 ならこの城では魔法は使えないはずじゃ……。


「でね、少し変わっているのはこれからなんだよ。そもそも魔法が使えない場所には、魔法分解術式があちらこちらに仕込まれている。けどその術式はあくまで魔法、つまりは零から一を生み出す際の零の行程を削除するものであって、一から二を生み出す際のその行程は消せない」

「じゃあ……」

「そう。だからレンタル魔法なら、たとえ魔法が使えない場所においても使用することができるんだ」

「す、すごい……」


 クイーンのその発明に、僕はただただ驚くしかなかった。

 クイーンは僕の驚き様を見て、さぞかし喜んでいた。


「イージスお兄ちゃん。こんなところで何してるの?」

「あ、ああ。実はだな、とある宝石を探しているのだが、なかなか見つからないんだよ。だから少し困っていてな……」

「そうなんだ。でも大丈夫。私のレンタル魔法があれば、簡単に見つけられるから」


 クイーンは腰の巻いた袋から札を一枚か取り出した。


「クイーン。転移のレンタル魔法、あといくつある?」

「二枚しかないけど……どうしたの?何かひらめいたような顔してるけど」

「ひらめいたんだよ」


 僕はクイーンの肩を掴み、目を見ながら言った。

 全てが思い通りに行くのなら、簡単に簡単にスタンプを牢獄から連れ去ることができるかもしれない。


「ひとまず《月の心》っていう宝石を見つける。それを見つけた後、スタンプの救出に行かなければ……」

「スタンプ?」


 クイーンは首を傾げた。

 それもそのはず、クイーンはスタンプのことを知らない。当然と言えば当然か。

 クイーンの力は借りたいが、やはり一人でやるべきか?魔法によるトラップが仕掛けられているというし、気をつけなければクイーンにも被害が及ぶかもしれんか。


「イージスお兄ちゃん。私も役に立ちたいんだ。だからお願い。協力させて」

「ああ。頼んだぞ。クイーン=ヘルメス」


 僕は一切の躊躇いなく言った。

 クイーンはかわいらしい微笑みを見せ、そんなクイーンが妹のようにかわいくなり、頭を優しく撫でると、クイーンは満足げににやりとした。


「クイーン。《月の心》がある場所はどこだ?」

「はい。占ってみます。〈占いの札タロットカード〉」


 クイーンは"占"と書かれた一枚の札を額に当てると、目を瞑ってまるで深い眠りにでも入っているかのように静かに佇んでいる。これから何が始まるのかと興奮しながら見ていると、クイーンの髪は強い風にでも吹かれたように舞い上がった、


「ツキノココロ、バショハ、ゲッコウガマイオリシタクジョウ。サンダンツミカサナッタカイソウのサンダンメ」


 舞い上がった髪が静かに戻ると、目を開いて周囲をキョロキョロとする。


「ここは……あ、そうか」


 どうやらそのレンタル魔法を使うと一時的に意識を失うらしい。


「場所は、解った?」

「恐らく……」


 訳するとこうだ。

 月の心、場所は、月光が舞い降りし卓上。三段積み重なった階層の三段目。

 つまりは、月明かりが入る場所、窓がある部屋の月光が机に差し込んでいる場所であろう。そしてそこはこの三階まである城の中の三段目。そこに行けば、きっと《月の心》は見つかるだろう。

 とは言っても、少し範囲が広い。


「行くぞ。目指すは三階だ」

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