第33話 怪盗の心得

「イージス。今日は最後の試練だ。この試練で合格すれば、牢獄は攻略できるだろう」

「はい。解りました」


 僕は必ず救う。

 囚われの身となった、スタンプを。


「イージス。最後の試練は魔法によって造り出されたとある城。その中からとある物を探して帰ってこれたら合格だ。もちろん魔法は使えない。己の足と今まで学んだ技術だけで頑張りなさい」

「ルビー先生。とある物とは、何ですか?」

「それはだな、月光に照らされると紅く光、そうでなければ青く光る美しい石。確かその宝石はこう呼ばれている。《月の心》と」

「月の……心?」


 月は空に浮かぶ一つの天体であり、ただ悠々と漂っているだけの意思のない物体のはず。そんな月に、心などあるのだろうか?

 僕が首を傾げていると、ルビー先生は優しく言う。


「君は物には心がないと思っているのかい?」

「いえ。物は大事にしていますが、心があるようには思えないのです」

「まあそれが普通だろうな。だがもちろん物にも意識はあり、それは月も例外ではない。なぜ《月の心》という宝石が月に照らされると紅く光るか解るか?」


 恐らく魔法化学に似ていることだろう。

 確か光の乱反射的な感じだったような……、いや、光の屈折を利用して見える光の色が変わるみたいな……、いやいや、それも違うか。


「あ!?月特有の光を吸収すると紅くなるようにできてるから?」

「違うよ」

「ええぇっぇぇぇええ!答えは何ですか?」

「正解は、いつか解るよ。きっと」


 昼間から見える薄い月を眺め、ルビー先生は言った。

 いつか解る。その言葉がどういった意味を含んでいるのかは解らなかったが、それでもきっといつか解るのだろう。


「イージス。それじゃ早速最後の試練を始める。頑張って行ってこい」

「はいっ」


 元気よく返事をするとともに、ルビー先生は僕の背中に触れた。すると周りの景色はあっという間に変わり、僕はとある建物の玄関にいた。


「玄関スタートか。城の外から始まると思っていたが、玄関スタートは少し難易度が低めなのか?」


 などと呟いていると、目の前にある階段を監視できるようにカメラがつけられているのが解った。


(なるほど。どうやら魔法の罠以外にも仕掛けはあるみたいだな)


 僕はカメラに映らないように足を進ませ、まずは一階の部屋全てを探す。

 なるべく音を立てぬように足を進ませる。そしてまずは一つ目の扉。ゆっくりと開け、部屋へと入ったーーその瞬間、雷鳴が地を駆け抜け、僕の体を食い尽くすような勢いで迫る。

 避けることなど無理であり、僕はその雷鳴をくらうと確信したその刹那、盾が雷鳴を防いだ。


「何だ!?」

「大丈夫?イージス」

「クイーン!?」


 僕の視線の先にいたのは、何枚もの札を手にしているクイーン姿であった。

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