第31話 怪盗確保

 突如現れたブラックキャットに、魔法使いは驚きを隠せずにいた。

 だがしかし、そこは完全に魔法使いに包囲されている陣の中。そこにいるのは極めて危険である。


「捕らえろーー」

「ーー〈白箱ホワイトボックス〉」


 多くの魔法使いが魔法を放とうとした瞬間、一人の魔法使いがブラックキャットを煙のような白い正方形で囲んだ。


「これでブラックキャットは捕まえた。あとはギルドに連れて帰る」

「スモッグ=ホワイトネス!」


 そう呼ばれている男の首には、やはり金色に輝く長方形が下げられていた。


「金色魔法使いか……。ところでさ、とっととこの風の魔法、解除してくれないか」

「あ、ああ……」


 驚いているのか納得していないのかは解らないが、渋々少年は僕たちを拘束していた風を解除した。

 その場にいる視線は全て煙の箱に向いている。


 こんなあっさりスタンプは捕まってしまうのだろうか?


 きっとブラックキャットがスタンプだと知らなければ、僕はブラックキャットが捕まったことに喜びを覚えただろう。だがしかし、ブラックキャットは僕の親しいスタンプであった。

 寂しい感情、寂しい思い、何か足りないような、そんな虚無が僕を襲う。


 スタンプ。スタンプ。スタンプ……。


「す、スモッグさん。どういうわけか解りませんが、館内にブラックキャットが現れたとのことです」

「な、何だと!?」


 スモッグは煙の箱を消失させる。すると、そこにいたはずのブラックキャットは既に消えていた。


「くそっ。分身か。お前ら、館内はに任せる。俺たちは博物館から出てきたブラックキャットを捕らえるため、博物館の周囲を魔法のバリアで囲め」


 ーー六時五十六分。館内ーー


「出たぞ。ブラックキャットだ」


 館内を縦横無尽に駆ける様は、正に虎の威を借る狐ののようにも思えた。

 その素早さを誰も捉えることができぬまま、ブラックキャットは《天使の涙》が飾られているガラスケースの上に立った。


「今すぐブラックキャットを捕らえろ」


 そんな怒号が響く中、ブラックキャットは手に一枚の黒い布を取り出した。その布をガラスケースにかぶせると、今度はブラックキャットの姿が消え、一人の男は黒い布を手に掴んで取る。するとどういうわけか、《天使の涙》は消えていた。


「なぜ……ない!?」


《天使の涙》を護っていた者たちが困惑する中で、ブラックキャットは既にその場から去っていた。

 階段の手すりを使って下の階へ降り、あっという間に出口へと足を進めていたその最中、一人の男がブラックキャットの前に立ちはだかっていた。


「ブラックキャット。いや、スタンプ=キャットスター。理事長として、私がお前を捕まえる」


 ノーレンス=アーノルド。

 魔法学園理事長が、そこには立っていた。


「〈闇化やみばけ〉」


 ブラックキャットの全身は黒い漆黒の闇に覆われ、この暗い一本道で姿を消した。

 だがノーレンスはその原理を解っているかのように頬をあげ、手の上に光を灯した。すると、ブラックキャットはノーレンスの横を通りすぎる直前で姿がはっきりとした。


「さすがは魔法怪盗。君のイリュージョンは素晴らしかった。だが、もうお仕舞いだ」


 ノーレンスがブラックキャットの手をかざすと、風がブラックキャットへとまとわりつく。その風はブラックキャットの動きを束縛し、ブラックキャットは身動きがとれなくなった。


「スタンプ。君はもう闇に化けることができない。それは光があるからだ。今日この日、ブラックキャットは捕まる。すまないが、私には君を捕まえることしかできない。だからせめて、正体は牢の中で教えてくれ」


 ブラックキャットは捕まった。

 ノーレンスに体を拘束されたまま、ブラックキャットは牢へと容れられることとなった。

 ノーレンスは転移しようとした瞬間、二人の者が現れた。


「「スタンプ……」」

「イージス!それにエリザまで。全く、これから捕まるというのだから、せめて友達には正体はばれたくなかったな」

「スタンプ……」

「楽しかったよ。イージス、エリザ。またいつか会えたら、その時はもう友達じゃなくていいさ。俺はもう、お前らからたくさんのものをもらったから」

「〈転移テレポーション〉」


「さようなら。大好きな大好きな、友達たち」


 そしてブラックキャットは、イージスとエリザの前から姿を消した。

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