第30話 ブラックキャットが現れた

「ブラックキャットがスタンプ?そんなわけないだろ……」

「イージス。君は察しているはずだ。そもそもなぜスタンプは執拗以上に君をここへ連れてきた?」

「解らない……」

「もし自分が捕まり欠けた時、お前に捕まえてほしかったんだよあいつは。だから無理矢理にでもお前を呼んだ。そしてあいつは……捕まるつもりだ…………」


 心当たりはあった。

 スタンプと僕は教室ではそこそこに仲が良く、恐らくスタンプの唯一の友達であった。だからこそスタンプは僕に頼んだのだろう。

 けど、スタンプがブラックキャットだったなんて信じられない。


「イージス。今日この日、ブラックキャットを捕まえに百を越える魔法使いが魔法ギルドから派遣された。私たちがやるしかないんだ。スタンプを救えるのは、私たちしかいない」


 どうすればいい?

 そんな答え、僕に解るはずもない。

 けど、友達を救うってことにさ、理由なんて、いらない。


「エリザさん。僕がスタンプを、逃がします」

「やるぞ。私たちで」


 そして明朝七時より少し前、ゴールドタウンのゴールド博物館周辺を囲むように、魔法使いが群がっている。

 魔法竜騎士、魔法剣士、魔法銃士、魔法狩人、魔法精霊術士など、多くの魔法使いが警備している。


「エリザさん。この数から逃げることは可能なのですか?」

「難しい……。魔法ギルドには階級があり、上から金色魔法使い、銀色魔法使い、紅色魔法使い、蒼色魔法使い、みどり色魔法使い、そして白色魔法使いという階級がある。その中で、金色魔法使いに位置する魔法使いがも来ている」


 エリザさんは恐れからか、冷や汗が止まらない様子だ。


「金色魔法使いって、どれほどの強さなんですか?」

「金色魔法使いは、ノーレンス理事長と短い間だけでも対等に戦えるほどの強さを有している」


「ねえ。君たち何の話してるの?」


 突如僕の耳元で囁かれた声。

 咄嗟に僕は距離をとり、耳元で囁いた者を見ると……


「子供?」


 そこにいたのは、大人とは言えない小さな少年であった。


「そう怖がらないでくれ。僕はただの金色魔法使いさ」


 少年は首から下げているネックレスのような物を持つと、それについているのは金色に輝く長方形の物。恐らくそれが金色魔法使いの証なのだろう。


「私たちに何の用?」

「安心してくれ。僕は怪しい者に話を聞いているだけだ」


 いや、安心できねーだろ。

 とツッコミたくなる気持ちを抑え


「僕たちはブラックキャットではない。知りたいのはそれだろ」

「察しがいいね。でもさ、すぐに解ることだよ。君たちがブラックキャットかそうではないかをね」


 少年は僕たち二人に手をかざすと、風が僕たちに絡み付く。

 ちぎれそうにもちぎれず、まるで固体のような風に縛られているせいか、血が止まっているような感覚にも陥っている。

 恐らく原始魔法零三〈風錠エニグマ〉だろう。


「逃がさないよ。今の時刻は六時五十五分。五分以内にブラックキャットが現れなければ、君たちをブラックキャットとして拘束する」

「とっくに拘束しているくせに」

「ブラックキャットが現れたら解放してや……」


 その言葉を詰まらせ、ブラックキャットは視線を一つの場所に集中させていた。それは周囲の魔法使いも等しく同じであった。




「ぶ、ブラックキャットが現れた」

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