第23話 竜馬祭・開

 僕は銀色の鱗に身を包んだ竜ーーシルヴァーに乗り、大空を魚のように泳いで駆け抜ける。

 風の中を進む感覚はとても気持ちよく、魔法竜騎士になった人の多くが転職しない理由が解った。やはりこんな職業は、天職だ。


「イージス。お前、初めてにしてはなかなか才能があるじゃないか」

「ありがとうこざいます」


 縦横無尽に駆ける竜の姿は、まさに快感とも言うべき楽しみがあった。空を螺旋状に飛び、そして雲を突き抜ける感覚に勝ることは何一つないであろう。

 長い間飛び続け、そして僕たちは先ほどまでいた校庭へと着地した。


「なかなかに才能があるじゃないか。これならば竜馬祭に出ても優勝できそうだな」

「「竜馬祭??」」

「やはり知らんか。竜馬祭というのはな、まだ新人の魔法竜騎士が参加できる大会でな、その大会では速さや正確性、さらには意外性や魔力など、様々な分野を見られる競技だ」

「ですがまだ新人ですし……」

「人生とは挑戦だ。挑みもせずに諦めるのはやめろ。挑んだ者にのみ、愚痴を吐くことが許される。だから戦え。イージス=アーサー。お前は立派な魔法使いだろ」


 人生とは挑戦……。

 確かにそうだな。

 戦っていない者が、勝利を掴むことなどあり得ない。


「解りました。やりましょう。そして、優勝しましょう」

「おいおいイージス。私に勝てると思うのか?」

「勝つよ。アニー」

「こっちの台詞だ。イージス」


 良いライバルを持つというのは、なかなかに嬉しいものだな。


「大会は明日だ。よーく準備しておけよ」

「「明日!?」」


 あっという間に大会の日がやってきた。

 だがしかし、僕の相棒は元気でそれに十分動ける。

 僕がシルヴァーの顎を撫でていると、竜を引き連れたアニーが僕のもとへとやってきた。


「イージス。どうやら噂だと、この大会は定められたルート通りに島から島を巡り、そして一番最初にここに帰ってきた魔法竜騎士が優勝らしい。もちろんだけど、転移の魔法などは禁止らしい」

「なるほどな。で、最速記録は何時間だ?」

「四日と十時間」

「!?」

「けどそれは異常なほど竜と連携のとれた魔法竜騎士だからできたこと。普通なら十日かかってもここには辿り着けないらしい」


 十日を四日半で進む?

 そんなこと、どんな魔法を使おうとも無理難題である。たとえどれだけ竜のアビリティーが良くても、十日を四日半は無理がある。


「アニー。具合でも悪いのか?」

「ううん。何でもない」


 そう言っていたアニーであったが、やはり何か考え事をしているような、悩んでいるような、そんな感覚がしていた。


「イージス。もうすぐ始まるよ」

「あ、ああ」


 僕は相棒のシルヴァーの星奈かに乗り、空を飛ぶ準備を始める。

 アニーは僕の隣に陣を構え、大空を埋め尽くすようば翼を広げた。


「ではこれより、竜馬祭を開始します。スターあぁぁぁあああああトっ」


 ゴングが会場に鳴り響き、一斉に魔法竜騎士は空へと飛び立った。

 百以上はいる参加者であったが、その半数は僕の後方、残り半分は前方を飛んでいる。

 まだ数分ほどしいか経っていないであろう時、魔法竜騎士は荒れ始める。


「〈火矢アロー〉」


 火炎の矢が、前を飛んでいた竜の体に刺さったのだ。矢を刺された竜はそのまま高度を下げ、広がっている大海へと体を沈めた。


「おいおい。反則だろ!」

「違う。この大会に参加しているのは竜騎士。つまりは、魔法を使える者ってこと。それにこの大会では魔法は使用でき、そして他の参加者に放ってはいけないっていうルールはない。ただ一つあるのは、殺してはいけないこと。それさえ護れば、いい」


 楽しい祭りだと思っていた。

 面白い祭りだと思っていた。

 だが、それは間違っていた。


「原始魔法零八〈火矢アロー〉」

「原始魔法壱八〈火弾フレッド〉」

「原始魔法壱二〈重風ドドンパ〉」


 無数の魔法が空を駆ける竜とともに駆け抜ける。


「このままでは……」


 僕は背後に手をかざし、魔法を放つ。


「〈絶対守護神盾イージス〉」


 魔法は僕の背後に出現した巨大な盾に防がれる。

 だがしかし、まだ一日目で魔力を大きく損傷してしまった。


「イージス。そんな大魔法を使えば……」

「ああ……。既にもう、限界……」


 少し魔力を使い過ぎたせいか、息が荒くなり、疲れている。


「イージス。もうすぐ見える島で休憩しよう。そこなら魔力を回復する薬草が生えているはずだから」


 まだ一日目だというのに力を使い果たした僕は、アニーに引き連れられて一つ目の島に着陸した。

 だがしかし、迫り来る魔の手は、もう近い。

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