第21話 月がきれい
「で、お前らは何をしたのか解っているのか?」
理事長室に呼ばれ、呆れと憤怒の混じった重い言葉を浴びせられる僕たち五人。
「すみません」
皆で声を合わせて目の前で憤怒に掻き立てられている理事長へと頭を下げた。
理事長は呆れたかのようなため息を大きく吐き、僕ら一人一人の目を見て言った。
「お前らはまだ子供なんだぞ。危険なことは我々教師が引き受ける。だから少しくらいは教師を頼ってくれ」
「解りました……」
僕たちが落ち込んでいる様子を見て、さすがに怒り過ぎたと反省したのか、理事長は優しく微笑んだ。
「まあだが、君たちが密売組織を捕らえてくれたおかげで、結晶化の病気に対する特効薬を入手し、それを大量生産することができた。はっきり言って、君たちはなかなかに貢献した存在である。とは言っても、学園の外に無許可で出るのはこれからも禁止だ。ちゃんと生徒手帳を読んでおけよ。じゃあ今日は帰りなさい」
「失礼します」
理事長室を出るとすぐ、僕たちは力が抜けたように背中を扉へと転がせた。
「疲れたぁぁぁあ」
「正直怖かったけど、案外そんなには怒られなかったね」
「ああ。何とか耐えたぁぁああ」
僕たちは密売組織が根城としていた町で密売組織を捕らえ、そこへノーレンス理事長が来た。ノーレンス理事長によって密売組織は捕まり、密売組織から結晶化に関する特効薬を手に入れた。おかげであの町の住人、もちろんその中にはノーマンの母親のおり、彼女らは全員薬によって一命を免れた。
だがなぜ名医でさえも創れなかった薬を、どうして密売組織が創れたのかは解らない。未だに謎は募るばかりであるが、きっとそれは、まだ序章に過ぎない。
アニー、スカレア、ブックは疲れたのか、足早に寮へと帰っていく。
真夜中の月が輝く中で、ノーマンが屋上へ向かっていくのが見えた。
「ノーマン。月はきれいか?」
「イージスか。やっほー」
ノーマンは笑顔で僕を迎え入れた。
「ねえイージス。どうして君は、私を助けてくれたの?」
「僕はもう誰かが傷ついているのは見たくないし、誰かを傷つけるのも嫌なんだ。それが苦しいことだって解っているから、だから僕は、涙を流している人がいたら、お節介でも救いたくなるんだよ」
「イージスはかっこいいね」
「いやいや。全然そんなことはないよ」
「っていうか思ったんだけど、私はイージスよりも年上なんだよ。普通敬語使うでしょ」
「そういえばそうだった……」
すっかり忘れていたことであったが、今思い出したことにノーマンは笑っている。
「イージス。君がいなきゃ、私はずっと誰にも相談できずに独りのままだった。イージス、私を救ってくれて、ありがとう」
涙の入り交じる瞳を輝かせ、霞んだ声で彼女は言った。
お礼を言われたことなんて滅多にないけど、やはり誰かの力になれたって思えるだけで、誰かが僕がいてくれたことに感謝してくれるだけで、僕は嬉しい気持ちに包まれた。
「イージス。君は、英雄みたいだね」
「いやいや。僕はまだまだだよ」
「でも、イージスは私を救ってくれた。たとえ誰かの英雄じゃなくても、イージスは私の英雄だよ。たった一人、私だけの英雄」
ーーイージス=アーサー
「月、きれいだね」
魔法学者になって解ったことがある。
魔法とは奥深いものであり、世界とは広いものであるのだと。
魔法学者になっていた期間は少し短かったし、ここで教わったのは魔法についてだけだったけど、いつかこの経験が役に立つと、そう僕は願っている。
ーー経験とは糧であるのだから。
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