第19話 魔法が引き起こす不吉な出来事

「ブック。何を言っているんだ?」

「そんなことより今は彼女のことが先だ。どうやら彼女は四年生で、職業は魔法園芸士。そして彼女の名はノーマン=ユリ」

「どうしてどこまで解る?」

「解るものは解るでいいだろ。今すべきことは、彼女と話すことだ」

「ああ」


 ブックは本を閉じ、そして次の日、イージス、アニー、ブック、スカレアの四名は早朝、まだ朝の会が始まる少し前に、四年生の教室が並ぶ廊下で待機していた。


「おいおい。皆見てるぞ」

「というか、軽い騒ぎになってるじゃないか」


 僕たち四人の一年生を、物珍しく四年生が見つめている。

 少し僕らを怪しんでいるのか、先生までもが僕らを鋭い眼孔で見つめている。


「ブック。さすがにこれは……」


 と僕がブックがいたはずの場所を見ると、既にブックはとんずらこいていた。

 僕たちもすかさず逃げ、何とか危機を脱した。が、目標のノーマン=ユリという女子に会えなかった。

 息をきらして階段で体を休めていると、窓を見たアニーが驚いている。


「アニー。どうした?」

「見て。あそこ……」


 アニーが指差していた場所には、確かに写真で見たノーマンがいた。

 だがノーマンがいた場所は学園の門の外。


「もしかして、学園の外に出るのか!?」


 そう気づいたのが遅かった。

 ノーマンはほうきに股がり、そのままどこかへと飛んでしまった。


「急いで追うぞ」

「学校は?」

「休むしかない」


 ブックにいなされ、その場にいた僕、アニー、スカレアの三名は小さくため息をついた。


「と・り・あ・え・ず、速くノーマンを追いますよ」


 半ギレのブックの背中を、僕たち三人は渋々追うこととなった。

 そもそも、ブックが校門じゃなく四年生の教室の前で待とうと言ったのが原因でこうなったというのに、反省の"は"の字すら見せない。

 全く、魔法使いの逆ギレは怖い。


 ほうきに乗った僕たちは、紅色の分厚い本を見ながら大空を駆けているブックの背中を追っていた。

 授業で何度もほうきに乗ったせいか、既にほうきの扱いには慣れていた。


「もうすぐだ。ノーマンが止まった場所はすぐ近く。よく周りを見ておけよ」


 魔法学園からはかなり遠く離れた場所まで飛んだ僕たち。

 確か魔法地理学で学んだことだが、ここら辺は人があまり住んでいない過疎地という場所らしい。

 確かにこの場所ならば、魔法剣士などに見つかる心配もない。


「お前ら。ここいらでは結晶化という謎の病気が流行っているらしい。気をつけろよ」


 ここの里が過疎地となった原因としては、今ブックの言った結晶化という謎の病が流行ったことにあるだろう。その病にかかった者は、体が少しずつ結晶に覆われるという奇病。世界に名を轟かせている名医でさえ、その特効薬は未だに作れていない。

 そしてもう一つあげるとするならば、発展していない、ということにあるだろう。見渡す限り木と藁の家ばかり。それにここの里は険しい山の中にあり、魔法での移動手段をもたない者には相当苦労する道のりである。

 この二つの原因により、この里は過疎化している。


「降りるぞ」


 降りたはいいものの、ここは人もいない空気が漂っている里の中。

 周囲には多くの建物があるも、そのどれもに人がいたような形跡は残っていない。


「どうします?聞き込みをしようにも、人がいないんじゃ意味がありませんし……。そもそも人なんか住んでいないように見えますし……」


 アニーの言う通りだ。

 とはいっても、ブックがここに来たということは、必ずここにノーマンがいるはず。そしてノーマンを従わせている密売組織もいるはずなんだ。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「カーマ先生。どうかされましたか?」


 校長ーーノーレンスへと話しかける一人の女性ーーカーマ。


「実はですね、イージス君、アニーさん、ブック君、スカレアさんが教室にいないんです」

「風邪でもひいたんですか?」

「いえ……。彼ら四人は、魔法学園の外へ出ました」


 ノーレンスは頭を抱え、読んでいた分厚い本を閉じ立ち上がった。


「彼らが行くような場所に心当たりはありますか?」

「解りません。ですがイージス君は密売組織に遭遇したらしく。その時に魔法学園の生徒かもしれない女子に会ったらしいんです。もしかしたらですが、何か関係があるのではないでしょうか?」

「なるほど。カーマ先生はいつも通り授業を続けていてください。あとは私にお任せを」

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