第18話 与えられた答え

「では一旦修行は終わりだ。今日は寮に帰ってぐっすり休むといい」


 全寮制であるこの学校。

 僕たちは校舎付近にある寮へと歩き、自室に戻って体を休める。部屋は僕とアニーの二人、あとスカレアとブックという二人も同じ部屋だ。だがしかし、今日は二人ともそれぞれの魔法職で忙しいらしく、まだ帰ってきていない。


「なあアニー。ダンジョンで出会ったあの女の人のことなんだが、僕たちとほぼ同じくらいの年齢なんじゃないか?」

「というと?」

「つまりは、あの女の人は僕たちと同じ魔法学園に通っている生徒、とか」

「考えすぎ。それにもしそうだとしても、その人をあぶり出すことなんかできないし、第一彼女は無理矢理協力させられているわけだから、在籍していても不登校なんじゃないの?」

「なら探そ。不登校になっている生徒を」


 僕がそうアニーに元気よく呼び掛けた途端、この部屋の扉を開けて二人が帰ってきた。


「イージス。何を探すんだ?」


 退屈そうなトーンで、ブック=アカシックはそう問う。

 気になっているのはスカレアも同じで、その質問を投げ掛けられた僕を凝視していた。


「まあそうだな。アニー、言っていいと思うか?」

「いいと思うよ。それに、二人は口が固そうだし」


 とは言っても、言っていいものなのだろうか?

 部屋は魔法で防音になっていて外からじゃ話は聞けないが、それでも本当にいいのか?


「イージス君。僕、そんなに信用できないのかい?」


 上目使いでスカレアはかわいい仕草をして近寄ってきた。

 ったく、さすがにそれは卑怯ではないか。

 そう心の中で自分の脳内で呟くも、そのかわいさにとうとう僕は敗北した。


「解ったよ。なら話す」

「やったー。イージス君、ありがと」


 天使のような微笑みを見せられ、つい頬が緩んでしまう。

 僕は咳を一発かまして喉を整え、ダンジョンであったことについて話を始める。


「実は、ダンジョンで密売組織に絡まれたのだが、そこで一人の女子が特殊な花を採取するために密売組織に半ば協力させたれていてな、その彼女がもしかしたら魔法学園の生徒ではないかと思い、不登校の生徒を探そうってなったわけだ」


 長々と喋ると、スカレアとブックはなるほどという表情を浮かべ、ブックが呟いた。


「じゃあ魔法園芸士の可能性が高いな」

「魔法園芸士?」

「ああ。生活職の一つでな、その職業は花に関係する仕事が多い。ということで、魔法園芸士、そしてそこそこ学のある生徒を誘拐するはずだから三年生以上の生徒に絞れば、不登校の生徒は少ないんじゃないか?」


 ブックの推理力に、僕は感激した。

 そう言えばブックは魔法学者だったから、頭は相当冴えるのだろう。


「イージス。早速調べに行くぞ。彼女が救いを求めているのだから、少しでも速く彼女を救わないと。でなければ、彼女は泣いたまま明日に希望を抱けなくなってしまう。俺たち魔法使いは、そんな人たちを助けるのが役目だ。だから止まることなど許されない。だから俺も本気を出そうと思う」


 そう言って、ブックは魔方陣の中から一冊の本を取り出した。

 紅の色をした分厚い本、一体その本はなんなのだろうか?

 その答えを聞く間もなく、ブックは分厚い本をペラペラとめくっている。そしてあるページを開くと、手を止め、目が釘付けになった。


「これは……どういうことだ……!?」


 ブックは驚きのあまり、声が漏れていた。


「ブック君。どうかしたの?」


 隣で立っているスカレアが優しく見守る中で、ブックは一言こう呟いた。


「イージスが出会った密売組織に拐われた彼女なのだが……彼女は自分から彼らに協力している」

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