魔法学者編

第15話 花の階層の襲撃者

 魔法使いには多くの選択肢がある。

 戦闘職になってダンジョンで戦うか、生活職になって安泰な生活を送るか、専門職になって趣味を極めるか、それとも事務職になって新しい魔法使いのために貢献するか、などなど、魔法使いは様々だ。

 その中で、少年と少女は一つの職業のため、ダンジョン内部にある花の階層フラワーフロアに向かっていた。


「アニー。あの花見つかったか?」

「ううん。こっちにもないみたい」


 僕とアニーはある花を探しているのだが、その花は一向に見つかる気配がなかった。

 半ば諦め欠けていたその時、僕たちは砂上に咲く一輪の花を見つけた。

 まるで月の欠片が落ち、そこから花が咲いたかのような神々しい黄金色。蝶の涙のような雫が一滴垂れており、美しい。


「アニー。あの花じゃないのか?」

「そうだよ。でも採る時は慎重にって、サウス先生が言ってたけど……」

「大丈夫だ。この花の採り方はちゃんと教わったし、ここでは邪魔するモンスターなんかいないしな……」


 僕が花に触れようとした瞬間、一本の矢が僕の足元に刺さった。

 矢が飛んできた方向を見ると、そこではアニーが大人であろう男に捕まり、数人の男が武器を持って僕に矢や剣を向けていた。


「ガキ。その花は俺たちが貰っていく。退いていろ」


 リーダー格の男が剣を抜き、アニーの首にあてながら脅しのように言ってきている。


「だが、この花は採り方を知らなければ花は硝子片のように簡単に砕けるぞ。そうなったら本末転倒だろ」

「大丈夫だ。こっちには安心できる魔法園芸士がいるんだよ。お前よりも花の扱いに慣れているからな。オウル。あの女に花を採らせろ」


 フードを被って顔を隠し、大きめのローブで体を覆っている一人の女。彼女の顔は見ることはできなかったが、長い黄色いユリ色の髪が出ており、その髪を流れるように、涙が一滴こぼれ落ちた。

 彼女の瞳からこぼれたであろう涙は、僕の心をざわつかせた。

 ーー彼女は、この選択を望んでいない。


 横目で彼女を見ると、既に花を採って冷却ボックスへと収納していた。

 その花が入った冷却ボックスを肩に下げ、リーダー格の男とともに謎の集団は帰っていく。

 男から解放されたアニーは咳き込み、去っていった男たちを眺めている。


「イージス。あいつらは……」

「ひとまず先生に報告しよう」

「うん。そうだね」


 ここーー花の階層フラワーフロアを抜けようとした僕たちだったが、この階層へと入る入り口には、なぜか獰猛なモンスターがいた。

 それはあり得ない。

 ここ花の階層フラワーフロアでは、温厚なモンスターしかでない。つまりは害などない。だが今目の前にいるのは、他のフロアにいるはずのモンスター。


「アニー、下がっていろ」


 僕は手に魔方陣を創製すると、そこに手を突っ込んで橙の剣ーー《夕焼けの剣》を取り出した。


「アニー。このモンスターは何だ?」

「これは……ユォール。ペガサスのような一角を額に生やし、漆黒の羽毛で包まれた人間のような体はユォールのもので間違いない。それに首を鎖で繋がれていることを見ると、飼育されていたな。多分さっきの男たちに」


 黒い羽毛を有し、人間を潰せるくらいの大きさの巨大な拳が僕へと振り下ろされる。

 僕は側面へ逃げたものの、地面は大きく粉砕される。


「確かユォールは一対一での戦闘では相当強いらしい。しかもこのユォールは相当鍛え上げられている。だから普通の個体とは


 アニーの解説を受けながらも、僕は目の前のユォールの拳を紙一重で回避する。


「アニー。援護を頼む」

「任せて」


 アニーがユォールへ手をかざすと、火炎の玉がユォールの顔面へと直撃する。ユォールは後ろに体勢を崩し、その隙を見逃さず、僕はユォールの心臓部へと剣を突き刺す。


「とどめだ」


 ユォールの体には大きな穴が空き、ユォールは精霊の光のようにたくさんの粒子となって弾けて消えた。


「アニー。帰るぞ」

「うん」

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