第14話 魔法剣士イージス=アーサー
目を覚ました。
既に日は落ち、真夜中であった。
ブーツが地面を足早に駆ける音に目を覚まし、僕は周囲を見渡す。
そこは魔法病院、それも特別室と呼ばれる特殊な治療をする際に使われる部屋だ。その部屋で僕を見ていた一人の女性ーーカーマ=インドラ。僕の担任だ。
「カーマ先生。どうしてここに?」
「私は一応医療業界では有名人なんだよ。それよりイージス、サンダーという男が心配して来ていたが、知り合いか?」
「はい。僕が見学に行っている魔法剣士の先輩です」
「そうか。では伝言だ。サンダーが病院の屋上で待っている。すでに傷はほぼ癒えている。速く行ってやれ」
僕は体を起こし、急いで屋上へと駆ける。
屋上へ繋がる扉を開けると、そこではサンダー先輩とサクヤ先輩、アニーが様々な思いを胸に待っていた。
僕を見るや、サンダー先輩は真っ先に口を開いた。
「イージス。単刀直入に言うが、戦龍が巣を飛び出して多くの被害者が出ている。戦龍は何とか今集められる戦力で食い止めてはいるが、この時期は強い生徒のほとんどが遠くの地方で試練やら何やらに挑んでいる。だから今いる戦力では、圧倒的に足りない。ということで、お前しかいない」
「僕が戦龍を倒し、暴走を止めます」
「頼んだぞ。イージス=
何か意味を含んだように僕の苗字を言い、サクヤ先輩は地面に円を刻んだ。
「じゃあ行くよ。戦龍を止め、ダンジョンの危機を救う。では行くぞ」
僕たちは転移し、ついた場所はダンジョンの入り口付近。
僕はダンジョンの中へと進もうとすると、サンダー先輩が僕を制止する。
「イージス。今アリシア先生は戦龍を食い止めていて俺たちの前に姿を現すことができないが、アリシア先生から渡された物がある」
サンダー先輩の手に握られていたのは、橙の色をした美しい刀身。少し眩しすぎるとも思えるくらいの輝きを放ち、大きさは普通の剣と大差ない長さだ。
僕はその剣を受け取るが、重さで剣を地面に落としてしまう。
「イージス。その剣は確かに重いが、今のお前ならば十分に扱える。名は《夕焼けの剣》だ」
その剣を手に握り、ダンジョンへと足を進める。
「頑張れよ。英雄」
「行ってきます」
僕は《夕焼けの剣》を力強く握りしめ、深い漆黒が連なる巣窟の奥底へと足を進めた。
これから戦龍と戦うというのに、一度大敗を期した戦龍と戦うことになるというのに、どうしてか僕の心は冷静であった。
次は本当に死ぬかもしれない。
また土の味を味わうのかもしれない。
だが、僕はなりたい。
誰もを救い、誰もを助けられるような、そんなかっこいい魔法使いに、僕はなりたい。
数歩ほどダンジョンへと入ると、多くの魔法使いが戦龍の暴走を食い止めようと、剣などの多彩な武器を振るっていた。だが、戦龍の強さに誰一人として太刀打ちできない。
「アリシア先生。右翼側は既に戦闘不能。今すぐ治癒しなければ……ですが戦龍が強すぎて彼らを救出できません」
戦龍の足元に転がる魔法剣士たち。
だが彼らは力尽き、戦龍の足元で倒れている。アリシア先生が彼らを救おうとした途端、戦龍が握る剣が転がる生徒たちへと振り下ろされた。
「駄目だ。間に合わない……」
アリシア先生の掠れた声がダンジョン内でこだまする。
「〈
巨大な盾が生徒たちを護るように出現し、その盾に戦龍の剣は弾かれた。戦龍が少し体勢を後ろへと崩した瞬間、僕は戦龍へと剣を振るう。
「〈
僕が振るった剣での一撃は、戦龍の体を真っ二つに斬り裂いた。
「大丈夫ですか?」
戦龍が消滅する一時を後方に、僕はアリシア先生たちの方へと振り向いた。
「イージス……」
「先生。短い間でしたけど、ありがとうございました」
「そうか。そうかそうか。そういうことか……」
徐々に大きく張り上げられた声であったが、言い終わるとアリシア先生は一つ大城なため息を吐いた。
「きっとその職業が、幸せでありますように」
「またいつか戻ってきます。その時は、先生と互角に戦える実力を得てみせますよ」
「ああ。楽しみだ」
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