第9話 クイーン=ヘルメス

 最初に会場へと現れたのは、毒を基調としたような紫色の髪を束ね、鎌を片手に持ち、腰から悪魔のような小さめの線のような尻尾を生やした少女。


「私はクイーン=ヘルメス。これから私が見せるのは、水を水晶に変化させる魔法です。ただ水晶を生み出す魔法では本物には見劣りしてしまいます。それでは今までの魔法と大差ありません」


 流暢に話す彼女に、会場は聞き入っている。


「ですので私は、ゼロから水晶を生み出すのではなく、水から水晶を生み出すという工程をつけ足すことによって、純度百パーセントの水晶を創り出すことに成功しました」


 彼女ーークイーン=ヘルメスが言った言葉に、観客席にいたとある企業の社長たちは大いに湧いた。


「聞きましたかな?ドールマン社長」


「ああ。今までわざわざ水晶を鉱石地帯にまで採りに行かなくてはならなかった。それに魔法じゃ彼女の言う通り、偽物の水晶しか創れんかった。だが水の工程を加えるだけで、そんなに変わるものかね?」


「確かに彼女の言うことには矛盾点があります。実際に水から水晶を生み出すなどという実験はそこら中の魔法研究者たちが実験している。が、どれも純度はせいぜい五十パーセントが限界。それを越えるなど、不可能だ」


 ドールマンの隣に座っている別の会社の社長は不安げにそう呟く。

 だが、ドールマンは彼女の言葉を信じていた。


「いや。彼女ならば、可能だろうな」


「なぜですか?」


「あの自信、それに多くの観客に見守られる中であれほども自信だ。その自信は確実に成功するからのことだろう」


「ですが……」


 不安げな社長たち。

 そんな中で、クイーンは魔法で水を出現させた。宙に浮く水玉、それにクイーンは手をかざした。


「何をするつもりだ?」


 会場が期待と不安に包まれる中、クイーンの手に創製された魔方陣から放たれた魔法は、なんと火属性魔法であった。

 彼女がした行動に、観客は驚きを隠せない。


「どういうことだ!?」


「水に火炎!?そんなこと、するまでもなく結果が見えている……」


 だが、戦慄が会場に走った。

 半径五センチほどの水の球体に放たれた火炎、その火炎が水に触れると水は突如沸騰を始めた。それは普通の水が沸騰するのと同じで、水の中の不純な空気がどんどん抜けていく。


「なるほど。そういうことか」


「ドールマン社長。どうかされましたか?」


「ああ。今までなぜ水から結晶化しようとした際に不純物が水晶に含まれるか。それは魔法で創った水の中に空気が含まれていたから」


「ですが魔法で創った水は百パーセント純粋だととある学会が述べていたではありませんか」


「ああ。それはあくまで空気のない無重力空間で行った場合だろう。だから多くの研究者がそれに騙された。だが彼女はその穴を見つけた。魔法で創った水はそこにあった空気を押しのけてそこに発生するのではない。そこにある空気に上塗りするように水が創られる。つまりは、あの水の中には空気が含まれているということ。だから彼女はその中の空気を排除し、水晶を創った」


 彼女は沸騰し、空気が含まれなくなった水に手をかざし、唱えた。


「〈水晶シズク〉」


 そして彼女は水晶を創り出した。それも、到底不可能だろうと言われていた純度百パーセントの水晶を。


「これが私が研究した技術。それと魔法です」


 彼女の生み出したその水晶は、その場に居合わせた鉱石関係の社長たちに大きな戦慄を呼び起こした。

 そんな中で彼女は会場を後にし、次の参加者が姿を現した。


「初めまして。私はカーマ=インドラ。これから私が見せるのは、まだ誰も見たことのない回復魔法です」

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