第8話 始まる魔法コンテスト
晴天が広がる今日の空。
ここ魔法学園附属の世界一大きい商店街では、魔法で空に絵を刻み、星を降らせて魔法の始まりを盛大に祝っている。
賑わう大通り、だがここの道は以上に広く、空いているとも言えるだろう。
「イージス。初日だからという理由もあるのだろうが、どうしてこの祭りの初日に参加したかったんだ?」
アリシア先生の質問に、わたあめを食べながら僕は答える。
「実は祭りの初日には、自分が創った魔法を巨大な大きさを誇るあの建物内で観客に見せることができるんだ」
僕が指を指したのは、通称、"魔法闘技場"と呼ばれる巨大なドーム型の建物だ。
その建物内の用途は様々であるが、今日から一ヶ月は魔法使いたちによるショーなどに使われる。だが初日は魔法使いたちが、己で創り上げた魔法を披露するということが行われる。
「どうしてそんなことのために一日を割くんだ?まだ来年もあるだろうに」
「違うんですアリシア先生。この魔法披露会で優勝すれば、僕の母が背負っている借金を一度に返せる金額が貰えるんです。だからどうしても勝たないといけないんです。どうしても、なんです」
僕は母の顔を思い浮かべながら、今まで苦労を思い浮かべた。
これ以上母や妹、弟たちを傷つけないように、僕はここで賞をとらないといけない。
「イージス。頑張れよ」
「ありがとうございます」
アリシア先生の声援を受け、僕は受け付けへと向かった。
僕は尋常じゃないほどの汗が流れる拳を強く握りしめ、高い壁を目指して前へと歩む。
「母さん。待っていてください。すぐに家計を楽にしますから」
魔法が行き交う空を頭上に、少年少女は歩みを進めた。
いつか彼らは巡り会うのだろうが、それはまだ遠い先の未来であった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「さあ始まりました魔法コンテスト。このコンテストでは世界全土に散らばりし魔法使いが一同に集結し、素晴らしい魔法を披露し合うという風になっています。では名門ヴァルハラ学園理事長、ノーレンス・アーノルドさんにお越しいただいていますので、彼が生み出した魔法の数々をご覧あれ」
拡声魔法を使って口達者に喋ったその者は、速やかにその場を後にし、円形のフィールドが中心に広がるその場所に、一人の男が現れた。
闇より深き漆黒のマントを纏い、悪魔の血のような真っ黒い眼光を放っており、真夜中の月を映したような黄金色と黒の混じった手袋を装着した男ーーノーレンス・アーノルド。
彼は両手をかざし、一言呟いた。
「〈イグナイテッド〉」
その言葉が呟かれるとともに、暗かった会場に光が灯された。
「ではこれより、ノーレンス・アーノルドのショーを是非ご覧あれ」
会場は興奮と歓喜に包まれている。
もちろん、それは控え室から会場の映像を見ている出場者たちも例外ではなく、控え室は静寂に包まれている。
「アリシア先生。理事長の魔法は見たことあるんですか?」
「いや、見たことない。だから楽しみだよ。世界一の魔法使いとも称された彼が、一体どんなショーを披露してくれるのか」
アリシアやサンダー、そしてサクヤという女性は静かにノーレンス・アーノルドのショーを見守る。
「〈風竜〉、〈火竜〉」
ノーレンスが両手を地面につけその言葉を放つと、地面に出現した二つの魔方陣から二匹の竜が同時に現れた。
一匹は緑色の鱗を纏い、風を体から発生させている巨大な竜。もう一匹は紅蓮の鱗を纏い、火を鎧のようの纏った巨大な竜。
「これらは私が創った魔法ではありません。でも安心してください。これから行う魔法こそ、今皆様に初めて見せる魔法の数々です」
ノーレンスは二匹の竜に両手をかざした。
「集え、万能なる精霊たち。会せ、共愛なる魂ども。理を超越し、今こそ全てを貫けたもう。〈
二匹の竜は互い同士が吸い込まれるように進み、そして純白の光に包まれつつ、その竜は変化を遂げた。
緑色の鱗と紅蓮の鱗が交ざり合い、美しい旋律のような容姿となり、それ以外はなんら変わらない竜が生まれた。
「では次に、この竜を卵の状態まで戻してみせましょう。〈
竜は段々と小さくなっていき、まばたきをする間にも竜は卵へと返ってしまった。その卵をその場に置き、ノーレンスは指を鳴らし、呟く。
「〈
会場の天井には流星が行き交い、その流星からこぼれる光の粒が観客に降り注いだ。
最後にノーレンスは再度指を鳴らし、流星が消えた。
彼のショーを見終わった観客たちは、自ずとスタンディングオベーションをしていた。
「ではこれから披露されるのは、他の魔法使いによるショーです。では、ご覧あれ」
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