第5話 戦龍の眠り家

 僕たちは今、《戦龍の眠り家》にて、剣の修行をしようとなった。

 とは言っても、相手は六年生が束になってようやく勝てる暴虐な龍ーー戦龍である。僕たちはまだ剣の扱いになど慣れていない。いきなりそんなモンスターとやりあうのは、少し厳しい。


「イージス。アニー。俺たちは剣士ではない。だ。それを踏まえた上で、あの龍との戦闘に望め」


 サンダー先輩はそう心配し、《戦龍の眠り家》へと繋がる巨大な土の扉を押し開けた。

 扉の向こう側ーーそこは外と同じくらい暗いが、なぜかその部屋の天井は突抜になっており、そこから月明かりが部屋へと差している。ちょうど月明かりが当たるその場所で、一匹の龍は静かに眠っていた。


「あれが……戦龍ですか?」


「ああ。鎧のような鱗を纏い、付近には愛剣である"紅蓮"が大地に刺さっている。つまり、あの龍こそ"戦龍"だ」


 確かに眠っている龍の尻尾の近くには、刃が紅色に染まっている美しいまでの剣が堂々と大地に突き刺さっていた。その剣の大きさは約五メートルはあるだろうか?それに龍の大きさはおよそ三十メートル。さすがにでかい。

 僕は静かに剣を抜き、それに連鎖してアニーも音を立てずに剣を抜いた。


「ではイージス、そしてアニー。これより戦闘を始める。俺があの龍の剣を弾くから、お前たちは援護や俺の剣術を見て学べ」


「「はい」」


 すると僕たちの返事に目を覚ましたのか、戦龍は体を起こして周囲を見渡す。二足二腕の体を起こし、一面大地のフィールドを見つめ、その中に僕らがいることに気づいた。


「行くぞ」


 サンダー先輩は躊躇なく、剣を抜いて巨大な戦龍へと駆け抜ける。

 戦龍の剣は背後にある。つまりはこのまま戦龍の体へと攻撃を撃ち込む気なのだろうか?

 そう思っていると……


「何!?」


「尻尾で剣を持った!」


 戦龍は長い尻尾で剣を持ち、サンダー先輩が振り下ろした剣をいとも容易く防いだ。


「さすがは古の龍。何十年も生き残っているわけだ。イージス、アニー、援護だ」


 サンダー先輩の声に体を動かし、戦龍の背後へと回り込んだ。


「〈火爆フレオラ〉」


「〈撃風エルルガ〉」


 僕とアニーは戦龍の背中へと剣をかざす。

 僕は火炎を、アニーは暴風を放ち、その攻撃に戦龍はうねり声を上げた。


「ナイスだ」


 サンダー先輩は戦龍が振るう剣の上を走り、戦龍の頭部へと飛んだ。


「これでもくらいな。〈雷帝トール〉」


 稲妻のように駆け抜ける極雷がサンダー先輩の剣先から放たれ、黄色い閃光に包まれ、戦龍の体には電流が走る。

 サンダー先輩は決まったと思ったのか、空中で剣をしまった。がその時、戦龍の尾での一撃が、サンダー先輩の脇腹を直撃した。サンダー先輩はそのまま壁へと激突し、血反吐を吐いて壁を寝床にした。


「サンダー先輩!?」


 焦りと緊張が僕とアニーの体を駆け抜けた。

 戦龍へと視線を移すと、戦龍は既に右手に剣を構えていた。戦龍はその剣を頭上へと振り上げ、そしてアニーへと振り下ろす。


「やめろおおおおおおおお」


 僕はアニーの正面へと駆け抜け、そして戦龍の振るう剣へ手をかざし、魔法を唱える。


「天をも守護する絶対なる天盾よ。今こそ我が身を護りたまえ〈絶対守護神盾イージス〉」


 僕の正面には、巨大な一つの盾が創製された。その盾は閃光の如く輝き、戦龍が振るう剣を防いだ。


「アニー。今からサンダー先輩を連れてここから脱する。だからアニーはサンダー先輩を抱えて先にこの部屋から出ろ」


「イージスは?」


「僕なら大丈夫。この程度の龍からなら、簡単に逃げられる。だから行けぇぇええ」


 アニーは泣きつつも、壁を寝床にしているサンダー先輩を抱え、そして開けっぱなしの扉の方へと駆け出した。だが、戦龍の視線がアニーへと向いた。


「させねー」


 戦龍はアニーへと剣を振り下ろした。だが僕はギリギリでアニーを護るように再び盾を創製し、剣を防いだ。その隙にアニーは部屋の外に抜け出した。


「あとは僕が逃げればいい……」


 けど、どう逃げる?

 もう既にあれほど巨大な盾を創製する魔力など残っていない。今残っている魔力で使えるのは低級の魔法だけ。

 絶望的だ。

 こんな状況で、どうあの化け物から逃げればいい?

 答えはない。


 僕は剣を構え、脳内で戦龍の攻撃を捌くビジョンを、


「ぐはっ……がっ…………」


 戦龍の剣が振り下ろされ、それを避けたが地面を破壊する衝撃波で体が吹き飛んだ。


「だめだ……。もう、立てない……」


 ーーイージス。お前は世界一の魔法使いになるんだろ。だったら、こんなとこで止まってはいけない。さあ、立って。前に進めば、良いことあるよ。


 突如、脳内に響く母の声。

 こんな苦境に立たされてこそ、母の偉大さは解るものだ。


「僕はこんなところでは死ねない。必ずいつか……世界一の魔法使いになる。だからぁぁぁああ」


 血まみれの体を無理矢理起こし、戦龍の前の立ちはだかる。


「来いよ。僕がお前を、倒してやる」






 僕は今、魔法使いとして、戦龍に挑む。

 たとえ、死ぬことになってでも。

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