第6話 帰ってきたよ

 僕は剣を握り、戦龍へと構える。


「さあ来い。僕は、魔法剣士だ」


 遥か高くそびえ立つ壁。

 数秒などでは越えることのできない、天へと届くような高い壁。

 それでも僕は、強くなりたい。

 きっといつか世界一の魔法使いになれるのなら、僕は、今ここで命を燃やす。


 振り下ろされる戦龍の剣を小さな剣で受け流すようにしてかわし、刀の上を走って戦龍の腕へとたどり着く。だが戦龍は蚊を振り払うようにして腕を激しく振るい、僕は吹き飛んで地面へと転がった。

 骨が数本折れた。

 鎖骨が二本、右足の骨が三本ほど、左手にある骨は全て折れているな。


 吐き出しそうな痛みだった。

 今にも逃げ出したくなるような痛みだった。

 それでも、僕は立ち上がった。


「戦龍。この程度で終われると思うなよ。僕は、僕は……あれ?」


 急に視界がぼやけてきた。

 まるでもやがかかったように、視界は少しばかり歪んでしまっている。


「まずいな……。体が、言うことを効かね……え……ぇ…………」


 その瞬間、戦龍の剣が倒れる僕へと振り下ろされた。


「ああ……。これで、死ぬのか…………嫌だよ」



 剣が振り下ろされたその瞬間、激しい金属音が鳴り響いた。

 まるで巨大な鉄と鉄が打ち付けられるような、そんな巨大な音が光の如く周囲へ響いた。その音が駆け抜ける振動に、僕のゆっくりと目を開けた。

 視界の先では、一人の女性が戦龍の握る巨大な剣を受け止めていた。


「大丈夫か?イージス」


「アリシア……先生…………?」


「イージス。私は今の君の先生だ。だからたとえ自分の命をかけようとも、誰かを救う義務がある」


 アリシア先生は剣を振るうと、戦龍は後ろへと仰け反り返る。その瞬間を見計らい、アリシア先生は僕を抱え、出口へと駆け抜ける。

 戦龍はすぐの体勢を立て直して剣を思いきりアリシア先生へと振るうも、間一髪でアリシア先生は外へと抜けた。


「危ないところだったな」


《戦龍の眠り家》で一匹、暴れている戦龍を見て、アリシア先生は安堵とともに心の奥底からの気持ちを吐き出した。

 アリシア先生はあの一瞬だけでも相当疲れたのか、モンスターの巣窟ーーダンジョンの中で寝転んだ。僕も寝転がり、アリシア先生とともに無防備な状態となった。


「アリシア先生。こんなところで寝てたら、モンスターに襲われますよ」


「残念ながら、私はここに来るまでに全魔力を使ってしまった。だからもう……」


 巨大な地鳴り。

 二人して頭を地面に付着させているせいか、それがはっきりと聞こえる。その振動が流れてくる方を見ると、《戦龍の眠り家》の方から一匹の龍が刀を振るって人間サイズの出口を破壊しようとしている。


「アリシア先生。このままでは……」


「ああ。解っている。解っているが……これほど強い敵には、到底敵わない」


 アリシア先生はそびえる巨大な龍を背後に、なす術もなく倒れたまま。


「このままじゃ……」


「イージス。死とはそう焦ることではない。今から死ぬとなった時、最も冷静だった者こそが生き延びることができる。だから常に待て。君には仲間がいるだろ」


 雷電が駆け抜け、戦龍の顔に電撃が流れる。その一撃で戦龍の動きは止まり、その隙を待っていたかのように謎の女性が僕たちの前に現れた。


「サンダー」


「了解」


 サンダー先輩は戦龍の顔から飛び移り、彼女の背中へと飛び付いた。

 すると彼女は地面に円を刻み、


「それは迷いからの解放。時に未来への近道。道なき道を進むため、その王道を今こそ切り開け。『転移円テレポーションサークル』」


 その円の中にいた僕たちは、なぜか学園の屋上に寝転んでいた。

 状況が呑み込めない中、アニーが涙ながらに僕の懐へと飛び込んだ。


「イージス。生きてて良かった」


 嬉しそうに僕へと抱きつき、イージスは悲しい笑みを浮かべていた。


「もう無茶はやめてくれよ、イージス」


「ああ。解ってるって」


 だが安堵し、さらには緊張感漂う戦場から抜けられたのか、体の力が抜けて僕は意識を失った。


 ーーまた、倒れちゃったな。

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