魔法剣士編

第3話 魔法剣士

「初めまして。イージス=アーサーです。これからよろしくお願いします」


 そんな軽い挨拶を済ませると、僕は窓側の一番後ろの席へと座らされた。隣には無愛想な表情を浮かべているアニーという女子がいる。


「では授業を始めます。将来の職種が決まっている者は、指定された場所へと向かってください」


 担任のカーマ先生がそう言うと、ほとんどの生徒が立ち上がって教室を出ていってしまった。

 誰もいなくなった教室で、僕とアニーが残された。

 残っているということは、きっとアニーも将来の職種が決まっていないのだろうか?


「残ったのは二人ね。じゃあ二人は将来何になるか決めるまで、二人で行動してもらうよ」


 カーマ先生はそう言った。


「先生。そもそも僕は何の職業があるのか解らないんですけど……」


「そうだったね、忘れてた。イージス君、魔法手帳にはこの学園についての多くのことが書かれています。その手帳の中には、魔法職が書いてあるので、ぜひ参考にしてね」


 僕は入学前に渡された魔法手帳とやらを胸ポケットから出した。

 魔法手帳に人差し指を当てると、魔法手帳は光り出し、ページが開かれた。そのページには、魔法職という魔法使いがなれる職業が記されている。


『・戦闘職

 魔法剣士、魔法銃士、魔法竜騎士……

 ・生活職

 魔法商人、魔法料理人、魔法栄養士……

 ・事務職

 魔法教育者、魔法学者、魔法研究者……

 ・専門職

 魔法怪盗、魔法召喚士、魔法僧侶……』


 などなど、この世界には多くの職業があるらしい。

 これほどあれば、悩むのは必然だろう。


「ではイージス君。アニーさん。二人で将来の職業を探してください。まあ決めた職業を途中で変えるのもあるですから。あとは全て魔法手帳が導いてくれるから、色んな職業を見学するといい。きっとその職業が、幸せでありますように」


 そう言い残し、カーマ先生は去っていく。

 教室に取り残された僕とアニーは、それぞれの魔法手帳を眺めている。


「あのー、アニーさん。アニーさんはどこか行きたい職業とかはありますか?」


 声が裏返りながらも、緊張しながら第一声を放った。アニーはそれに笑い、涙すらみせている。

 アニーは深呼吸をし、呼吸を整えて僕に言った。


「アニー、でいいよ。それに私たちはこれからパートナーになるわけだし。だからイージスって呼んでも良いよね」


「良いよ。……アニー」


 恥ずかしながら名前を言い、その反応にアニーは微笑んだ。


「じゃあまずは魔法剣士。行ってみよ」


「う、うん」


 いきなり戦闘職か、と少し驚くも、アニーの笑顔に負け、僕はアニーとともに剣道場へと向かった。


「おはようございます。これから魔法剣士の見学をさせていただきます。アニー=アーノルドです」


「イージス=アーサーです。よろしくお願いします」


 畳百畳はある剣道場で、僕とアニーは魔法剣士の監督をしている先生へと挨拶をした。


「そうかそうか。君が噂のイージス君か。それにアニーさんまで。運命とは面白いものだな」


 その女性は何やら呟き、腰に差している剣に手を絡ませ、話しかけている。

 どうやら少し変わった先生が監督をしているようだ?


 僕とアニーが先生をもの可笑しげに眺めていると、先生はまるで黒幕のような笑みを浮かべ、肩に羽織っていた漆黒と紅が混じった色のマントをコウモリの羽のようにばっさと広げた。


「自己紹介が遅れていたな。私はアリシア=コウマ。魔法剣士の頂点に立ち、剣の腕前なら世界一と誇れる程の才能を有している者である。私の剣は、全てを貫くのである」


 剣を天に掲げ、アリシア先生は宣言した。

 死に際の悪役のような長台詞を聞かされ、僕とアニーはきょとんと肩を落とした。


「おいおい。そう肩を落とすな。今から私自ら剣の稽古をつけてやろうと言っているのだ。なぜなら、君たちには何かあると確信したからだ」


 アリシア先生は剣を静かにしまい、左手に魔方陣を創製し、そこから白刃の剣を出現させる。


念柔剣ねんじゅうけん


「ここは魔法学園の道場だ。そう簡単には壊れないから安心しろ」


 アリシア先生が剣を握ったのを見て、稽古をしていた生徒たちは稽古をやめ、僕たちを見ている。

 アリシア先生は僕たちに自分が持っているのと同じ剣を投げ渡し、僕とアニーはそれを受け取った。


「本気ですか?アリシア先生」


「当然だ。もちろん他の生徒の邪魔は入らない。だから私と存分に剣交わせろ」


 アリシア先生は剣を後ろへと振りかぶり、その構えで固まった。

 アニーを見ると、既にアニーも剣を前で構え、アリシア先生に目線を集中させている。


「イージス。どうした?」


「いえ。剣を握るのは初めてでして……」


「怖いか?戦うのが」


「……はい」


「安心しろ。私は君たちに攻撃はしない。ただ弾くだけだ。それにこの剣は人以外に当たると固くなるが、人に当たるとクッションのように柔らかく変化する。だから存分にかかってこい。私に子供が攻撃を当てることはできないからな」


 自信満々でアリシア先生は宣言した。


「アリシア先生、後悔しますよ」


 僕は剣を握り、アニーと同様に構える。


「では、始めだ」

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