第2話 これから始まる物語

 空に浮く巨大な学園。

 その世界で最も大きいとされる巨大な湖ーーその遥か上空に陣を構えるは、世界で有数の魔法使いを世に生み出す名門学園ーー名門ヴァルハラ学園ーー

 その学園にはいつも魔法が賑わっており、誰もが魔法というものに希望や夢を抱く、そんな学園であった。


 そして今日は入学式。

 新入生を迎え入れるため、数々の魔法が入学式で披露され、一時間以上の入学式は幕を閉じた。


「あの魔法凄かったよな」

「あれを越える魔法はないでしょ」

「この学園に来て正解だったわ」


 新入生の満足そうな呟きを耳にいれ、在校生はつい微笑みがこぼれる。

 そんなご機嫌な空気が漂う中、一人の生徒が来ていないことに、理事長は気づいた。


「初日で遅刻など、愚の骨頂であろうが。全く、どこのガキだ?」


 校長ーーノーレンス=アーノルドは魔法型電子名簿と生徒一人一人の顔を凝視し、誰がいないのか探していると、一人の教師が理事長に早口で話しかけた。


「たたた大変です」


「どうした?少し落ち着いてから話せ」


 ノーレンス理事長は温かい水の入ったマグカップを魔法で出現させ、そのマグカップをその教師へと渡した。教師は水を一口飲み、そして話す。


「新入生が登校中に、授業をサボっていた不良たちに誤ってぶつかり、ケンカになっているとのことです」


「おいおい。相手はあの不良たちか!誰か向かったのか?」


「いえ……。それが…………」


「どうした?速く教えぬかね」


「すぐに助けに向かったのですが……酷い有り様でして」


 ノーレンス理事長はすぐに学園付属の魔法病院へ向かい、その少年の前に立った。

 全身に包帯を巻き、治癒術士や僧侶らが回復魔法を少年へ浴びせ、体の傷を癒している。その光景を、ノーレンス理事長は拳を握りながら眺めている。


 新入生が入ってきてから十日後、ようやく少年は目を覚ました。


「あれ……。ここは?」


「起きたか。イージス=アーサー君」


 僕が目を覚ますと、そこはベッドの上で眠っていた。

 そんな僕を心配そうに、一人の男と母が僕を見ていた。


「僕は……どうしてこんなところにいるんだっけ?」


 とぼけたように言う僕に、知らない男が優しい口調で教えてくれた。


「イージス君。君は登校中に不良生徒にぶつかって、彼らに魔法でぼこぼこにされた。だから君は今ここにいる」


 そういえばそうだっけ。

 僕はほうきに乗る練習なんかしていなかったし、それに襲ってきた暗雲のせいで、風で吹き飛ばされてこの学園に流されてきたんだっけ。そしたら人相の悪そうな男にぶつかって、それからは痛いだの熱いのだの、色々と辛かった。


「イージス君。我々がもっとしっかりとしていれば、きっとこんなことにはならなかっただろう。本当に申し訳ない」


 男は深々と頭を下げた。

 その姿勢からは、反省の余地どころか、他にも様々な感情が連想できる。


 きっとこの男は、とても優しい男なのだろう。だから人が傷ついているのを見ると、まるで自分の痛みのように感じる。優しいが故、少し可哀想にも思えてしまう。


「あのー、少しでも速く学校に行きたいんですけど、いつから授業に参加できますか?」


 その質問に、男は頭をあげる。


「既に君の体は万全に動ける。だから今日からでも十分に授業には参加できる。お母様がそれを許すかどうかですが……」


 男は僕の母へと視線を移す。


「うん。イージスがそれで良いなら、全然良いよ」


 あっさりとしていた。

 僕はベッドから起き上がり、男の背中を追いかける。そして連れてこられたのは、小さな一室。


「イージス。制服に着替えてくれ。そしたら教室へ行くぞ」


 男は部屋から出た。

 僕はその部屋の真ん中に置かれた机、その上にたたんで置かれている制服に目を通す。

 紺と紅色が程よく混じり合い、金色のボタンにはこの学園の紋章でもある"火炎の薔薇"が記されている。僕はその制服を身に纏い、そして最後に肩から腰まで程しかないローブを纏い、部屋を出た。


「似合っているじゃないか。イージス」


「はい。ありがとうございます」


「では行くぞ」


 部屋の外で待機していた男の背中を追い、僕は一年A組の教室の前についた。


「イージス。今日からここが君の教室だ。もう二度とあんなことにならぬように我々も尽力する。だから六年間、楽しい学園生活を送ってくれ」


「はい」


 そして僕は、扉を開けた。

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