第5話 ニャーは不幸な猫である
ニャーはニャーである。
我ながらややこしいことにニャー、というのは一人称で、ニャーというのは名前だ。
何の違いがあるのかだと。イントネーションが違うのがわからないのか!
――当たり前だ。何せ声に出していない文章なのだから、違いをつけようがない。
ニャーはこんな名前を付けたご主人を恨んでいる。
ご主人は酷い奴だ。一日に二回しかご飯をくれない。お隣に住むマンチカンの友人はいつだって豊富なご飯が器に盛られているというのに、我が家は貧乏にゃのだろうか。
「にゃ! にゃ!!(もっと寄越せ! もっとだ!!)」
ご飯時にご飯が足りないとアピールするために、ご主人の足にパンチを入れる。しかし彼はそれを何故か嬉しそうに見てニャーを撫でるだけで、決して量や回数を増やしてはくれないのだ。そうとなれば仕方ない。よりニャーに甘いご主人のツガイにおやつをねだりに行くしかない。
「なあ~?」
「どうしたの、ニャー? 甘えた声出して」
ご主人のツガイはニャーにとことん甘い。
ご主人が毎回おやつを無駄にあげないで!!と怒っているにも関わらず、いつもアピールすれば必ずおやつをくれるのだ。
夢中になっているテレビから視線を向けさせるために、ニャーは彼女の足首の辺りに擦り寄った。
「まーたおやつ目当てできたね。お前は私の所に来るのはそればかりだなぁ」
「うにゃぁ」
呆れた顔で耳の後ろをかいてくる。そこ、そこがいいのにゃああ……!
ごほん。あまりの気持ち良さに本来の目的を忘れる所であった。
ニャーは改めてツガイの足に体全体を擦りつける。媚びるのは本意ではないけれど、おやつの前にはプライドなんて少しもお腹のだしにならない。
「はいはい、しょうがないな。旦那に怒られるからちょっとだけだからね?」
「にゃっ!」
ウキウキと尻尾が無意識に揺れる。
お風呂に入りにいったご主人の様子を見て、しめしめと悪戯をするような顔でおやつの袋を開ける。内緒だよ、と唇に指を押し当て、少しという割には多めにおやつをエサ入れに入れてくれる。
食べている間、ニャーはいつもより大人しい。だからなのか、ツガイは食べる間ずっと背を撫でていてくれる。気持ち良さと美味しさが同時にやってくるこの時間が、何よりも幸せだにゃあ。
「今日も綺麗に食べたねぇ」
食後の毛繕いをしていると、ツガイは最後に頭を軽く撫で、餌入れを洗いに立ち上がった。
まだおやつのいい匂いがするのに、もったいにゃい。すんすんと鼻を鳴らし、口の周りの毛に微かに残る食べクズを最後に念入りに舐めとった。
洗い物を終えたツガイが戻ってきて、ソファで再びテレビを見始める。その隣にぴょんと飛び乗り、ツガイの膝の上でゴロリと横たわる。
仕方ないなあという言葉とは裏腹に、彼女はいつものように脇の机にあるブラシで丁寧に絡まった毛を梳かしてくれるのだ。
ご飯の量は不満だけど、お隣さんより愛されている自信はある。今日も今日とてご主人とツガイに愛でられて、ニャーは満足である。
次の日、おやつの量が減っているのがバレて、ツガイと一緒にご主人に怒られた。
ニャーは悪くない。ご飯の量が少ないのが悪いんだ。一緒に反論して欲しい!
そう思ってツガイの背中に隠れるように回ったら、正座中のツガイの足の裏を踏んでしまった。
「ニギャアーー!!」
途端にツガイは悲痛な鳴き声を上げて飛び上がり、涙目でこちらを向いた。そして彼女は味方になるどころかご主人と一緒にニャーを叱り始めた。
その日の夜は、ご主人は勿論、ツガイにどんなに甘えてもオヤツを出してもらえなかった。
やっぱりニャー不幸な猫なのにゃあ。
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