戻ってくる靴下
ツヨシ
第1話
品質管理の仕事にクレーム処理というのがある。
基本は苦情受付が担当し、私のところには報告だけだ。
だが内容によっては、品質管理の私が対応することがある。
ちなみに私の担当は靴下だ。
たとえば「同じ靴下を三年履き続けたら穴が開いた。返金しろ」とか「六百万円の着物と靴下を一緒に洗ったら、靴下の色が着物についた。六百万円払え」とか。
まあお金がらみの理不尽なクレームだ。
一度だけだが警察沙汰になったこともある。
そして数日前のことだが、今までに聞いたことがないクレームが入って来た。
苦情受付の担当者が言うには「あんたところの靴下を、何度捨てても戻ってくる。どうにかしろ」と言うそうだ。
まず、靴下を何度捨てても戻ってくるというのがわからない。
仮に百歩譲ってそうだとしても、それが商品の不良につながるとはとても思えない。
私はその靴下の購入者に連絡を入れた。
相手は中年女性だ。
最初は普通に対応をしていたが、私が例の靴下の担当者だと知ると豹変した。
「いいかげんにして! どうなってんの! 気味が悪すぎるわ! 何度捨ててもいつの間にかタンスの引き出しに入ってるの! そっちのせいよ! なんとかしないとただじゃすまないわよ!」
すごい剣幕だ。
なだめながら話を聞くと、どうやら死んだ自分の子供が使っていたようだ。
それが本当で、捨てても引き出しに入っているというのも本当だとしたら、それは気味が悪いだろう。
だからと言って、私にどうしろというのだ。
考えながら、ほぼ罵声のみとなった女の話を聞いていると、ふいに聞こえてきた。
電話越しにはっきりと子供の声が。
その声は「僕はおかあさんに殺されたんだ」と言っていた。
終
戻ってくる靴下 ツヨシ @kunkunkonkon
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