第7話 ドライブ

外観や、先天的な病気に対してDNAのデザインが可能、許可された現在において、人々は昔よりコンプレックスや、その他諸々から開放されているはずである。それでも、晩婚化や少子化の原因は、魅力的で従順過ぎるセクサロイドのせいにされている。


ハイラスは、民間モデルに分類されているセクサロイドの一連の立居振舞に、動揺を顔に出さないように努めながら祖母の手を引き、玄関を出て…ポーチ横の駐車スペースへ向かう。


「あらヒュー、イーサンのエレカ まだ乗ってくれているのね」アリスの表情が華やぐ

「ぁあ、おじいちゃんキレイに乗っていたからね、未だに良く走るよ」


ハイラスが、丁寧に祖母を助手席に案内する。「はい、ありがとう。ヒュー」


「じゃ、コーネリア、行ってきますよ。留守をお願いね」エレカの中から、アリスが手を振りながらコーネリアに話しかける。


「はい、いってらっしゃいませ。楽しんで来て下さいね」


「ありがとう。あなたも、夕方、出かけるようにね。あと、もし、あれだったら、ケーキを先に頂いたら?いいわよね?ヒュー」ハイラスが頷く。


「はい。ありがとうございます」コーネリアが答える。

「ヒュー、行きましょう」

「うん。じゃあ後でね、コーネリア」ハイラスもコーネリアに手を振り、エレカを発進させる。

かすかに、モーター音を響かせながらエレカが市街地を進む。


「懐かしいわ。イーサンともあの店にはよく行ったのよ。なんだか、イーサンとドライブに行くみたいだわ。…孫となのにね」「たまに、おじいちゃんのコロンの香りがする事があるんだ。何度かフルクリーニングをしているはずなんだけど、…気のせいかもしれないけど…」


「あら、乗りに来てるのかもしれないわね。イーサン」「そうかもね…」


流れる通りの風景を、窓越しに眺めながら、アリスが言う「私が若い頃、この街にはいろんな肌の色をした人が住んでいたわ」


「あの店のドアマンも今みたいなキレイなセクサロイドじゃなくて、昔は、タキシードコートを着た黒人の方がしていたのよ」


「大きくて、笑顔が素敵で…初めて両親と行った時はね、この扉の向こうには、アラビアとか不思議の国に繋がってるんじゃないかと、一瞬思ったのを今でも憶えているわ。…まだ、子供だったからね」


「ミドルスクールのテキストには、仕事を求めて閘星ゲートをくぐって、沢山の黒人が地球を出たと書いていたけど…」


「ヒュー、あなた、まさか黒人やその他の人達が、仕事を求めてだけで、月や火星に移住したと思っている訳じゃないでしょう?」


「うん、それはもちろんさ。結局…人種差別は遺伝子のせいにしちゃってるけどね」

「夢を見る機械ね。…あれ、コーネリアにも応用できるかしら?」


アリスが考え込む。おばあちゃんは、以前カレッジで教鞭を執っていた。性格か、職業的なものか、アリスの話は多々堅苦しくなってくる。


父や父の弟が祖母の家から、遠ざかる要因になってるのではないか?とハイラスは感じているが、個人的にはアリスとのこの手の遣り取りは嫌いではない…むしろ好ましいと感じる。今にして思えば、ハイラス自身の人格形成は彼女の影響が、大いに関係していると思っている。



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