第5話 ニュース

基地に戻ったハイラスはメカニックに操縦時、気になった部分等を伝え、整備チェック用パッドの記入を済ませ、搭乗用装備を外す為ロッカーへと向かう。


既にロッカーは、演習に参加した同じ部隊の搭乗兵や、他の兵科の兵士で混雑していた。


時刻は1640、1700には夕食、1730から本日の演習のブリーフィングが始まる。

夕食前にシャワーを浴びたかったのだが、結局2000まで無理そうだ…多分皆同じことを考えてるなと、ハイラスは思った。


「落っことされる瞬間の、あのタマがヒュッ!ってなる感覚が未だに慣れないな」気が付くと、チャールズが横に立っていた。

「チャーリー。…タマが付いたなんて初耳だよ」一瞥し、装備を外すハイラス。

「ハイラス!言うじゃないか!」演習が終わった解放感か?愉快そうなチャールズ。


ロッカーを出て、廊下に向かうハイラスとチャールズ。

チャールズが周囲を伺い、ハイラスに若干近付き囁く「…例の話、どう思う?」「…話?長期休暇の事かい?」食堂へ向かう廊下を歩きながらハイラスが聞き返す。


「違う違う、俺たちの部隊が火星旅行に当選した事さ」声を潜めて、チャールズがハイラスに追いつき言う。「俺たち?火星の内輪もめの件か?それなら月面部隊の方が、規模もデカいし適任だろう」とハイラス。「勿論そうさ、火星にも地球よりか、1日分は近いしな…。宇宙艦隊も展開している」ハイラスを追い越し、先に食堂へ入るチャールズ。

「じゃあ、何でまた?」パッケージミルのトレーを手に、歩きながら席を探すハイラス。


席に着き、更に声を潜めるチャールズ「それさ、月の部隊は既に派兵されてるのさ…3か月も前に」「3か月も?そんな話、基地でもニュースでも流れていないな…何だろ、俺たちは増援か交替要員か?」聞きつつ、フォークでパッケージミルのマッシュポテトらしきものを口に運ぶハイラス。チャールズは首を振りながら「いや、増援というか、月の派兵部隊は全滅したらしい…」

「ハハ、まさか?!…チャーリー。スペースコマンドは宇宙艦隊も持っているんだぜ?」ナイフ、フォークを宇宙戦艦のようにもてあそぶハイラス。


「本当さ!…知っているだろう?俺の特技を、色々調べたのさ」チャールズはタイプとスワイプの仕草を交える。

「チャーリー?!そのうち、営倉入りじゃ済まされなくなるぞ!」呆れるハイラス、続けて

「それで、あの降下訓練と休暇か…納得がいくな…地球からの部隊派兵なんて、テロリストとかニュースで流れてる規模じゃないな?報道が規制されている感じだな…チャーリーの話が本当なら、マズそうな話だ…全滅はさすがに…」


「再来月には、俺たちはロボットに乗って、火星でタコのエイリアンと戦うのさ!昔のムービーみたいだな」


満面の笑みで、チャールズ。黙るハイラス(なるほど。火星旅行を前にすれば、演習に集中仕切れないのも無理はないか…)


何気なく壁のスクリーンの方へ視線を逸らす。


視界の隅に、別のテーブルで他の女性搭乗兵と食事している、クリスチナを見つけた。

クリスチナもこちらに気づき、ハンドサイン(あれは、正式のものではないな、ジェスチャーに近い)で白い歯を見せて、ハイラスの前に居る奴(ゴリラ)は、頭がオカシイと、信号を送ってくる。


笑いをこらえながら(聞いている。了解)のハンドサインを返す。チャールズはクリスチナを睨めつけながら、前でゴリラの仕草をしている。

クリスチナは、わざとらしく首を逸らしチャールズを無視する。ハイラスは笑いながら、視線をスクリーンへ戻す。


食堂の巨大スクリーンには、女性キャスターのセクサロイド(新しいモデルだ。ワンメイクカスタムのエラクお高いヤツだろう)が、愛想良く、大した事のないニュースを読み続けている…。半年もしないうちに、このキャスターに瓜二つのセクサロイドモデルが市場に出回るのだろうと、ぼんやりと眺めていた。多数の若者がスクリーンのセクサロイドに向けて、口笛や、あまり品の良くないご意見を述べる。


「…惑星マルス。アレス共和国内において、白人地区への黒人労働組合のデモ行進が依然続いております。現地からの報告です」


(通信ラグの為、20分前の映像です)と画面隅に表示される。


アンシブル通信なら、ラグは無いはずだ…そっちを流さないのは検閲済み情報か…昔からメディアは変わらない、ユニオン…惑星連合国家になった今でも。


セクサロイドは器用に表情を変え、原稿を読み上げる。良く出来ている、と改めてハイラスは思う。瞬間、サウンドと共に(緊急速報)の文字が上端に表示される。


「臨時ニュースです。ユニオン政府は、アレス共和国に対して、平和維持部隊を派兵すると発表しました」食堂内が若干、騒がしくなる。


「そら、きた!」チャールズが、いつの間にか手に持っているコーヒーを流し込み、他の大勢と同じように画面に顔を向ける。

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