第56話 戦いの準備

 集合場所はウォルテミスダンジョンの入口。

 戦士ジーンが率いる五人パーティ、戦士ハーマン率いる六人パーティ、アル達四人の、総勢十五人でボス戦に挑む。


「よく来てくれたね、アル君。彼はもう一つのパーティのリーダー、戦士ハーマンだ。よろしくね」

 ジーンは戦士ハーマンを紹介した。


「なんだよジーン。こいつらガキじゃねえか。もしかして学園生にも見習いにもならないって奴らか?」

 ハーマンは見下すように言った。


「なんだとてめえ……」

 アルは頭にきて、ハーマンに詰め寄った。


「まあまあ、アル君。気に障ったらごめん。彼はあれでも貴族なんで、偉そうに言うのが癖なんだよ。許してあげて」

 ジーンはアルの肩に腕を回し、耳元でささやいた。


「こらジーン、聞こえてるぜ! 俺は別に貴族以外を差別してるわけじゃねえんだよ。レベル低くてボス戦大丈夫なのかって、心配してるだけだ!」


「ハーマンは言い方が悪いからね。アル君たちはレベル12でも大丈夫だよ。昨日見てたけど、バランスよく連携取れてて十分戦力になるさ」


 ジーンはアル達の戦いを見たうえで、昨日誘ってきていた。

 ジーン達もボス戦は初めてなのだ。命懸けの戦いの仲間選びに慎重になるのは当然で、自分の目で見付けたアル達を信頼していた。


「ジーンがそう言うならいいけど……。アルだっけ? まあよろしく頼むな」

 仕方なさそうにハーマンは手を出した。


「ああ、こちらこそな」

 アルは彼を好きになれそうになく、不愛想に握手した。


「はは、嫌われたみたいだね」

 ジーンが仲間のところに戻っていくアルを見ながら言うと、

「はん、知ったことか」

 と、ハーマンは強がってみせた。


 それから三パーティで地下六階を目指した。


 途中の戦闘は、ボス戦にMPを温存するため魔法は使わず前衛だけで戦ったが、どれもあっという間に決着がついた。

 ほとんど全ての戦闘は、アルとエリーが一匹相手をしている間に、他のモンスターは倒されている。


「前衛職が多いと楽ちんだな」

 アルはそう感想を漏らした。


「うん、確かに! オール前衛職のパーティも面白いかもね!」

 ジーンは楽しげに言った。


「おい、ジーン。変なこと吹き込むなよ。学園でも偏ったパーティは無理があること習っただろ!」

「冗談だよハーマン! 面白いかもって言っただけ。アル君だって分かってるよね?」


「ああ、まあ。そりゃ魔法使いとかいた方がいいだろうし」

 アルはハーマンの方は見ずに答えた。


「ほらね!」

「ちっ」

 ハーマンは何だか色々癇に障ったが、黙って地下六階を目指した。



「ここがボス部屋だ」

 地下六階に降り少し進むと、扉の前でジーンが言った。


「なんか物々しい扉ですね。」

 レネオが興味深げに言った。


「なんせボスモンスターがいる部屋だからね。ちなみにゴブリンロードを倒したことがあると、部屋の中に入っても何も起きずに素通りできるけど、誰も倒したことがないと、ゴブリンロードを倒さずに進むことはできないみたいだ」


「と言っても、地下七階へはランクDパーティじゃないと入れないからな。俺たちランクEはここが終点だ」

 ハーマンがジーンの話に補足した。


「そうそう。だからランクE冒険者はゴブリンロードを倒すと、一旦ウォルテミスダンジョンを卒業って言われてるんだよね」


 ジーンとハーマンの話は、アル達にはとても参考になった。

 彼らとしては学園で習っただけの知識かもしれないが、ジャンが教えてくれる話とはまた違って、新鮮に感じた。


「それじゃハーマンパーティも、アル君パーティも、戦法を確認するから集まってもらえるかい?」

 ジーンが皆に声を掛け、三パーティがジーン中心に集まると、説明を始めた。


「この部屋で現れるモンスターは、ゴブリンロードが一体と、ホブゴブリンが三体って話だ。二パーティがゴブリンロードの相手をしている間に、残りのパーティでホブゴブリンを退治するのが王道と言われている。アル君。きみのパーティにホブゴブリン退治をお願いしていいかい?」


「おお、任せな!」

 アルは自分の拳同士をぶつけ音を鳴らした。


「ありがとう。アル君パーティはホブゴブリンを倒したら、すぐにゴブリンロードに参戦してくれ。三パーティが揃ってから本番だ。ゴブリンロードは踏み込みが早く射程も長いから、後衛職は近づかれすぎないよう距離をとるように。それと、レベルが低いアル君とエリーちゃんも、自分にターゲットが向いてると気づいたら距離をとるように。ボクかハーマンがターゲットを奪うまでね」


「エリーちゃんて、変な呼び方すんなよ」

 エリーが呼ばれ方を気に喰わない様子で言うと、シンシアが困った顔をした。


「オ、オホン! 続けるね。で、ゴブリンロードはある程度ダメージを受けると、かなり広い範囲攻撃をしてくるので、ボクが合図を送ったら、盾職が前に行き、他はその後ろに隠れてやり過ごすように。HPが半分になったら使うんじゃないかって言われてるから、それが折り返し地点だ」


「範囲攻撃か……。どんなに離れてもダメなのか?」

 アルがジーンに訊いた。


「そうだね、少なくとも部屋の中はどこでも届くみたいだよ。なので、範囲攻撃が終わったら、僧侶はすぐに全員の回復に努めてほしい。シンシアちゃんは、自パーティの回復が間に合いそうになかったら、周りに声かけるようにお願いね」


「はい!」

 シンシアが素直に返事をした。


「うん、いい返事だ。説明は以上だけど、何か質問は?」


「あの、スリープの魔法は効かないと思っていいですか?」

 レネオが手を挙げながらジーンに訊いた。


「そうだね、スリープで眠らせたり、盾攻撃で気絶させたりするのは無理みたいなんで、ダメージ優先の攻撃がいいかな」


「なるほど、ありがとうございます」

 レネオが頭を下げた。


「他には? 他になければ、扉を開けるよ?」

 ジーンが周りを見渡した。


 みな黙ってジーンを見ている。


「よし、それじゃボス戦スタートだ!!」

 ジーンがボス部屋の扉を開け放った。

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