第55話 冒険の目的
「ボス戦!?」
いきなりの提案に、アルは驚いた顔で言った。
「そそ、ボス戦。地下六階の」
戦士は食事でも誘うようなノリで言ってくる。
「すみません、僕ら勉強不足で。ボス戦って何でしょうか?」
レネオが戦士に詳細を尋ねてみた。
「そっか、君たちは学園の卒業生じゃなさそうだから、知らないのかもしれないね。一つのダンジョンに一体しか存在しないモンスターが稀にいてね、同じエリアにいる他のモンスターより遥かに強くて、通称ボスモンスターって呼ばれてるんだ。そいつと戦うってこと」
ウォルテミスダンジョンの地下六階には、ゴブリンロードというボスモンスターが現れる。
一つのパーティでは到底倒せるような相手ではなく、三パーティで挑むのが一般的で、その戦士は三パーティ目が見つからず探しているところだった。
「なるほど、ダンジョンにはそんなのがいるんですね。でも、冒険者学園の卒業生でしたら、知り合いのパーティもたくさんいるのでは?」
わざわざ知らない自分たちを誘っている理由を、レネオは聞いてみた。
「それが、みんなもうゴブリンロードは退治してるみたいでね。実はボスモンスターって、一回でも倒したことがあるメンバーがいると、何故か現れないんだよね。だからメンバー集めるにしても、ゴブリンロードを倒したことないやつだけを集めないといけないんだ」
「そうなんですか、不思議ですね」
「ああ。ちなみにボスモンスターを倒すと称号が貰えるからね。ゴブリンロードなら『ゴブリンスレイヤー』の称号がステータスに付くよ。ボクら学園の卒業生は、その称号を取るまでウォルテミスダンジョンで頑張るのがセオリーかな」
「称号!? なんかカッケエな、それ!」
アルが興奮気味で入ってきた。
「君もそう思う? 冒険者ってお金を貯めたり、レベルやランクを上げるのが目的の一つだけど、色々な称号を獲得するのも大きな目的になってるんだよね。数十種類の称号があるって言われているみたいだし」
「おおぉぉ、なんか聞いてるだけで熱くなってくるぜ! な、エリー!」
アルは少年のような目で言った。
「まったく男ってやつは……。そんな金にならなそうな話には興味ねえよ」
エリーは肩をすくめながら答えた。
「たしかに称号はお金にならないけど、ボスは特別な魔鉱石を落とすんだ。冒険者ギルドに持っていけば、かなりの高額で引き取ってもらえるし、グレスリング魔法協会に直接持ち込めば、お店では売ってない希少な魔法具に取り換えてもらえるよ」
「本当か!? なんだよ、そういうことは先に言えよ! 兄ちゃん、いい話じゃねえか!」
エリーは戦士の背中をバンバン叩きながら言った。
「あ、ああ。興味もってもらえたなら嬉しいよ。で、どうだい?」
戦士は馴れ馴れしいエリーに戸惑いながら言った。
知り合いの少ないアル達が、これから先、ボス戦を一緒にやるパーティを自力で探せるとは思えない。
四人はメンバーに確認を取るまでもなく、答えは決まっていた。
「俺たちレベル12なんだが、それでも良ければやらせてくれ!」
「十分だよ! 僕らも、もう一つのパーティも全員レベル15で、二パーティでも何とか倒せると思うんだよね。でも三パーティなら確実だから、一緒にやってもらえると助かる!」
「じゃあ決まりだな。俺はアルだ。一応このパーティのリーダーやってる」
アルが手を出すと、
「ボクは戦士のジーン。ボクらは今年の学園卒業生だ。よろしくね」
ジーンはアルと握手を交わした。
ボス戦は翌日に挑むことになり、アル達は一度ウォルテミスの冒険者ギルドに戻った。
「なにぃ! ボス戦だとおぉぉ!!」
アルから話を聞いたジャンが、思わず大声を上げた。
「おっちゃん、声がでけえよ……。ただでさえでけえ声してんだから……」
アルが耳を抑えながら言った。
「いや、すまんすまん。あんまりにもお前が変なこと言うからよ」
「変なことって、ボス戦やるのおかしいか?」
「おかしいとまでは言わんが、まだ早えと思ってな。よく一緒にやるやつ見つかったな」
「今日ダンジョンで知り合ってさ。今年の学園卒業生だってよ」
「なるほど、そういうことか。ギルドで募集することもできるが、ちょうどお前らを地下四階五階あたりで見かけたってことだな。学園卒業生と一緒なら、なんとかなるかもな」
「ああ、そういうことだ。次に来るときは『ゴブリンスレイヤー』になってるからな」
アルはそう言うと、レネオ達が待っている席へ足を向けた。
「アルっ! ボス戦は共同クエストと並んで、死亡率が高いから気を付けるんだぞ!」
ジャンがアルにそう声を掛けると、アルは一瞬足を止めるが、振り向かないまま手をあげた。
「ジャンさん、驚いてたみたいだね」
アルが席に戻ると、建物中に響いたジャンの声のことをレネオが言った。
「ああ。あの感じじゃレベル12は早えのかもな」
「でもよ、こんなチャンス見逃せねえよな。レベルが三つも上のパーティと組めるんだ。使わない手はねえぜ!」
エリーがやる気を見せている。
「エリーの言う通りですね。上手く周りを利用するのも大事じゃないでしょうか」
シンシアがエリーに同意する。
「ボス戦なんて僕も知らなかったし、ジーンさん達に偶然出会えてホント良かった。こうやって色んな人と知り合って、たくさんの事を学ぶのが大切だって改めて勉強になったよ」
「だな。レネオでも知らないことがあるのが、なんか嬉しくてしょうがないぜ」
アルは、想像もできないような冒険が、これからもたくさん待ってるのではと思い、そう言った。
「なんだアル。レネオが知らないと嬉しいって、意味分かんねえよ。頭でも打ったのか?」
エリーが白けた目でアルを見た。
「打ってねえよ!」
いつものようにアルがムキになって言い返すと、四人は笑い声で包まれた。
冒険者にとって、冒険は生きるための手段であるが、アル達若者にとっては、まだまだ青春の一ページでしかないのかもしれない。
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