第57話 ゴブリンロード戦①

 ボス部屋の中は想像よりも一段上の広さで、地下六階はほとんどこの部屋一つで占められていた。


「中はずいぶん広くて、不思議と明るいね。これならライトを使う必要なさそう」

 レネオが中の様子を見ながら言った。


「ホントだな。それにしてもモンスターなんて見当たらねえけど」

 アルはレネオの横に立ち、一緒に部屋を見回した。


 バタン!!


 全員が部屋の中に入ると、扉が自動的に閉まった。


「だ、誰だよ閉めたやつ!」

 エリーが扉の音に驚いて声を上げた。


「エリー……、あれを見てください……」

 シンシアがエリーの腕を掴み、少し震える声で言った。


 エリーはシンシアの視線の先を追うと、部屋の中央にモンスターがゆっくり現れていた。

 事前の情報通り、ホブゴブリンが三体、その向こうにいる二回りは大きいモンスターがゴブリンロード。


「あんなでけえのか……」

 モンスターまでまだ距離があるが、エリーはその存在感に鳥肌が立った。


「怖いなら、ずっと俺の後ろにいたっていいんだぜ」

 アルがエリーに声を掛けてきた。


「は? ふざけんな! しっかり活躍してみせるさ!」

「だよな。あの時みてえに、見てるだけなんてまっぴらだ」

 アルはエルゴナ寺院遺跡でのリッチ戦を思い出しながら言った。


「よし、聞いてたとおり、ある程度近づくまでは動かないみたいだ」

 ジーンが言うように、モンスターは冒険者たちに気付いている様子だが、いっこうに向かってはこなかった。


「じゃあ予定通りアル君たちはホブゴブリンを頼むよ」

「ゴブリンロードを相手してるのに、後ろからホブゴブリンに攻撃されるのはカンベンな」

 ハーマンが釘を刺すようにアルへ言った。


「わかってらあ!」

 アルは何が何でもホブゴブリンを引きつけてやろうと誓った。


「ハーマン、アル君、いいかい?」

「おうよ!」

「ああ!」


 ジーンの声にハーマンとアルが答えると、15人全員が一斉に進んだ。


「いくぜエリー!」

「任せな!」


 アルとエリーが先陣を切り中央を駆けた。

 アルパーティが真ん中でホブゴブリンを迎え撃ち、ジーンとハーマンのパーティがそれぞれ左右に迂回し、ゴブリンロードへ直接攻撃を仕掛ける作戦だ。


 アル達がホブゴブリンに到達する直前、レネオがスリープを唱えると、相手の一体が眠りに落ちた。


「あれはあたしが!」

 エリーはすぐさま、その一体に攻撃を絞った。


「おめえらはこっちだぁぁっ!」

 アルは残りの二体に突進すると、盾攻撃と剣での攻撃を交互に繰り返し、両方とも一人で引き受けた。


「よし、いつも通りの流れだね。僕らも少し前に進もうか」

「はい、ホブゴブリンは問題なさそうです」

 レネオとシンシアは、二人の戦闘を見て戦況を確認すると、ゴブリンロード戦に向けモンスターとの距離を詰めた。


 そうこうしているうちに、エリーが一体目を倒しアルに合流した。


「アル、なにチンタラやってんだ!」

「うるせえ、待っててやったんだよ!」

 二人とも、まだ憎まれ口をたたく余裕があった。


 アルは、エリーがホブゴブリンの片方を引き受け、一対一の戦いに持ち込めたことで、すんなりと一体を退治した。

「一匹相手なら余裕なんだよ!」


 エリーも、アルがHPを半分ほど削っているので、あっさりと残りのホブゴブリンにトドメを刺した。

「おとといきやがれっ!」


 アルパーティは自分たちの役目をしっかり果たすと、少し離れた場所で戦っているジーン達の様子をうかがった。


「まさか、もう決着がついてたりはしねえよな」

 アルは遠くを見るような素振りで、冗談っぽく言った。


「いや、ぜんぜんみたいだぜ……」

 エリーは、ゴブリンロードが簡単な相手ではないことをすぐに理解した。


 ゴブリンロードは人間の倍ほどの大きさで、その手には巨大なハンマーが握られている。

 その割に軽快な動きで、ジーンやハーマンの攻撃を素早く避け、ハンマーを打ち下ろしている。

 パワーもスピードも、今までアル達が戦ってきたモンスターとは比べ物にならず、本来レベル12程度で戦える相手ではなかった。


 ジーン達とゴブリンロードは互角の戦いに見えた。


 前衛職がゴブリンロードの動きを封じ、後衛職が魔法や弓矢で援護。

 アルと同じ盾戦士のジーンと、槍装備のハーマン二人を中心に、連携して攻撃をしている。

 それでもゴブリンロードに命中している攻撃は半分以下だった。


「こいつ、目の前に俺たちがいるのに、魔法や弓矢の攻撃もしっかり反応してやがる」

 ハーマンは攻撃の手を休めずに言った。


「これほど良い動きをするとは思わなかったね。もう少し一方的になるかと思ってた」

 ジーンはそう言いながら、ゴブリンロードの直撃を受けないよう気を付けると同時に、ターゲットがなるべく自分にくるよう気に掛けた。


「ジーンの言う通り、二パーティで挑まなくて正解だったな」

「でしょ。アル君たちがホブゴブリンを受け持ってくれなかったら、結構まずかったかもよ」


「ああ。でもこの攻撃力はレベル12だとやばいぜ。アルならともかく、シーフのお嬢ちゃんは一発でHPの半分はもってかれるな」

「なんだよハーマン、心配してるの?」


「うるせえ……」

 ハーマンは照れ隠しするように、強く一歩踏み込んで槍を突いた。


 ジーンは、ハーマンの優しさを知っていた。

 同じ貴族出身の冒険者で、自分と違って長男でありながらも、他の貴族のように平民を差別するようなことはなく、おごらない性格だった。


 口が悪いため、子供の頃から仲の良いジーンしか気づいてないのだが。


「さすがアル君たち、役割を果たしてくれたみたいだね」

 ジーンがアル達のパーティが向かってきていることに気付いた。


「そうか、じゃあここからが本番だな」

 ハーマンが槍を強く持ち直した。

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