第53話 インプの狩場

 クエストの多いウォルテミスの北側と違い、西側では他の冒険者と出くわすこともないまま、目的の渓谷にアル達は到着した。

 途中、モンスター生息エリアもないので、ここまでやってくる理由もないのが普通だ。


 予定通りウォルテミスから丸一日かかったので、インプが出現するモンスター生息エリアの少し手前で、四人は夜を過ごした。


 翌朝、渓谷に沿って川沿いを上ると、すぐにインプと遭遇した。


「うほぉー、あれがインプだな! マジでいたぜ!」

 アルは獲物を見るような目でインプを見つけ、剣を鞘から抜いた。


「六匹か。初めての相手だ、気を抜くなよ!」

 エリーも二本の短剣を構えた。


 インプは蝙蝠こうもりのような羽が生え、かぎのような先端の尻尾を持った、小型のモンスターだった。

 肌は紫色に近く、尖った耳、充血した鋭い目が、悪魔族らしい印象を与えてきた。


「魔法への抵抗力が高いみたいだから、僕は牽制ぐらいしかできないかも。二人とも、頼むね!」

 レネオはアルとエリーにそう声を掛けてから、スリープの呪文を唱えた。


 六匹のインプのうち、スリープが効いたのは一匹だった。

 この前戦ったアンデッドのように、まったく効かないというわけではなかったが、抵抗力が高いというのは間違いないとレネオは感じた。


「ガード使います!」

 シンシアはアルとエリー、両方にガードの魔法を使い、防御力をアップさせた。

 初めて戦うモンスターのときは、相手の強さを測れるまでガードを使うようにしていた。


 それを合図に、アルとエリーは攻撃を仕掛ける。


 インプの攻撃は主に爪によるものだったが、たまに炎属性の魔法を使ってきた。

 初めて魔法を使うモンスターと戦ったため、アル達は最初だけ驚くが、レネオが使う魔法より遥かに威力が低く、それほどの脅威にはならなかった。


「くっそ、ちょこまかと!」

 アルは攻撃を当てるのに苦労していた。


 小さい分、HPも低くダメージさえ与えれば簡単に倒せるのだが、素早い動きをするので、アルではなかなか命中しない。


「ほらアル、そっち行ったぜ!」

 敏捷性が高いエリーにとってインプは相性が良く、戦いながらも余裕ある表情でアルに言った。


「分かってる、黙っててくれ!」

 アルはそう返すのがやっとで、必死にインプ二匹を相手にしていた。


 その間に、エリーが四匹のインプを退治すると、アルもなんとかインプの動きに慣れることができ、インプ二匹を倒すことができた。


「シンシア。あたしはガードの魔法はいらなそうだ。次からはアルだけに使ってくれ。ゴブリンやオークより戦いやすい感じみたいでさ。今日は長くなりそうだし、MPは出し惜しみで頼むぜ」

「ええ、分かりまた。この前習得した『信仰』で消費MPが減りましたし、一日持たせてみせます!」


 最初の戦闘後、アルもエリーもダメージは少なかった。

 この程度で済むなら、一回の戦闘ごとにわざわざ回復魔法や薬草を使うほどでもないので、インプ相手なら長期戦が挑めそうだ。


 それからアル達は、インプを探し回り、日が暮れるまで戦闘を続けた。

 インプが発生するエリアはかなり広い範囲で、いくら狩っても減る様子もなく、一日の戦闘で魔鉱石は十個。上々の収穫だった。


「この調子なら二日で二十個いけそうだね」

 レネオが冷静に言うと、


「ああ、いい調子だ。今日は一旦昨夜の場所まで戻って、また明日来ようぜ!」

 とアルは充実した表情で言った。


「魔鉱石一個で銀貨三枚だっけ? 一日で銀貨三十枚か……、いい稼ぎだな!」

「ほんと、いい場所を教えてもらいましたね!」

 エリーもシンシアも満足気に言った。


 アル達は翌日も朝からインプを狩り、魔鉱石を十個獲得するまで戦闘を続けた。

 二日目も日が暮れるまでには集めることができ、夜は同じ場所で休息をとって、また一日掛けてウォルテミスまで戻っていった。



「移動に二日、戦闘に二日。四日間で銀貨六十枚は効率いいね!」

 成功報酬を受け取った後、冒険者ギルド内のテーブルに集まるとレネオは言った。


「ホントだよなー。こんなに美味しいクエストなんて、デニス様様だな!」

 エリーは報酬を分けながら、目を輝かせた。


「エリー、その言い方、なんか品がないですよ」

 シンシアはそう言いながらも嬉しそうだった。


「でも、エリーの言う通りだ。デニスさんには感謝しないとな。空いてるときのダンジョンと効率は同じぐらいじゃね? ただ場所が遠くて、ちょっと疲れるけどな」

 アルは自分の取り分を荷物に詰めながら、疲労が表情に現れていた。


 アル達は四人とも今回のクエストに満足していた。

 報酬も申し分ないし、レベル上げにも適している。このまま続ければお金も貯まってくるし、レベル12も近いのではと感じていた。


 ただ、四日間の冒険による疲労は、すぐに抜けそうにない。

 さすがの若者たちも、明日から出発という気には、肉体的にも精神的にもなれなかった。


「たしかに疲れるから、連続して受けるのは辛いけど、このクエストを中心に進めていくのが良さそうだね」


 レネオがそう提案したのもあり、アル達はその後も体力と気力が続く限りインプ狩りへ行くようになった。

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