第52話 次への切り替え
アル達は、冒険者ギルドに戻り共同クエストの報酬を受け取ると、次の日から挑もうとしているクエストも受領した。
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クエストNo GR636-006117
クエスト名 魔鉱石(インプ)の収集
地域 指定なし
依頼者 グレスリング魔法協会
依頼内容
インプが落とす魔鉱石を収集。
報酬 魔鉱石(インプ)一個につき銀貨三枚。最大二十個まで引き取り。
ランク E
ソロ 可
ソロレベル 17以上
期限 なし
出現モンスター インプ
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デニスが教えてくれたのは、インプが出現する、あまり知られていない狩場だった。そして、地域指定のないクエストがあることもセットで。
「なんだお前ら、このクエストでホントに大丈夫か? 地域を指定しないクエストは、それなりのベテランがやるもんなんだが。他のクエストと同時に受けられないから、効率悪いぞ?」
ジャンが怪訝な顔で言うと、
「いいんだ、これで! 待ってな、おっちゃん!」
とアルは親指を立てて歯を見せた。
その狩場は、デニスが低レベルだった頃に見つけた、秘密の場所だった。
当時の彼もダンジョンが混んでいてクエストに困っている時期があり、あちこち見回っているうちに、たまたま見つけた狩場だ。
10年近く前の話だったが、アルの話を聞いて思い出したのだ。
インプは悪魔族では最弱種で、低レベル冒険者でも倒せるモンスターの中では、数少ない魔鉱石を落とすモンスターの一つだ。
アルがデニスに教わった狩場は、クエストが比較的少なく冒険者があまり行かない、ウォルテミスの西方面にあった。
そのため認知度が低く、人気があってもいいような狩場でも空いているのだ。
「では明日は休憩にして、明後日にまた待ち合わせということで。エリーもシンシアもそれでいいかい?」
レネオが冒険者ギルド前で二人に訊いた。
「ああ、それで」
「はい。それでは明後日にまた」
二人は元気なく返事をすると、彼女たちの宿へ向かい帰っていった。
「エリーたちは、やっぱショックだったみたいだな」
アルはエリー達の背中を見ながら呟いた。
「うん、そうだね。やっぱり人の死を見ると僕らだって……」
平静を装っているレネオも、衝撃を受けた様子で言った。
「冒険者になると決めた時から、そういうのは覚悟してたけど、こんなに身近で起こるとやっぱな……。それでも俺たちは立ち止まらないだろ? やるからには、やれることをやって進もうぜ!」
「うん、僕ら四人は命を落とすことにならないよう、しっかりやっていこう! 僕らの冒険は始まったばかりなんだしね!」
アルとレネオは、気持ちを切り替えるように、お互いそう言い聞かせた。
二日後の早朝、アル達はウォルテミスの西門で待ち合わせをした。
「おはよう、アル! レネオもしっかり休んだか?」
エリーはいつものように、強めにアルの背中を叩きながら言った。
「アル、レネオ、おはよう。今日もよろしくお願いします!」
綺麗な青い髪は朝陽に照らされ、シンシアは爽やかな笑顔を見せた。
エリーとシンシアは元気を取り戻していた。
いや、それ以上に元気な二人に、アルとレネオは驚いて目を合わせた。
もちろん彼女たちにとって、冒険者の死はショックだった。
アル達と同じように、冒険者になるからには命懸けであることは覚悟していたが、目の当たりにすると、とても耐えられそうになかった。
それでもエリーとシンシアは立ち直った。
彼女たちに冒険者を辞める選択肢はない。逃げることは許されない。
自分たちのために始めた冒険者ではなく、コールトンには待っている孤児たちが彼女たちにはいる。
それがエリー達を強くし、支えているのだ。
どんなに落ち込んでいても、それを思い出す時間さえあれば、二人は立ち直ることができた。
「お、おはよう」
「や、やあ、エリー、シンシア」
アルとレネオは、予想外に元気なエリー達に戸惑いながら答えた。
「なんだよアル! パーティのリーダーが元気なくてどうする? ほら、行くぜ!」
「レネオも、なんかレネオらしくないですよ! さあ、今日から新しいクエストですね!」
エリーとシンシアは、いつも以上にいつもらしく、アル達に笑顔を見せた。
アルとレネオは、エリー達のことを心配していた。
一昨日の別れ際の二人を思い出すと、もしかしたら来ないこともあるんじゃないかと思っていた。
エリーとシンシアが来たら、元気を出すようにどう話そうかと迷っていたのだが、逆に元気をもらった気がした。
(二人は俺たちなんかより全然強かったな、レネオ)
アルは目でレネオに訴えた。
(そうだね。僕たちの負けだ)
レネオもアルの言いたいことが分かるように、目で答えた。
「デニスさんに聞いた場所は、西門を出たらすぐボロール山岳地帯に向かって、この辺りの渓谷まで行くとインプがいるらしい」
アルが地図を広げ、目的地を指差した。
「行くだけでも一日かかりそうだな」
エリーが言うと、
「ですね。だからなかなか知られてないんでしょうけど」
とシンシアが答えた。
「西門から出るのは初めてだから、ちょっとドキドキするね」
レネオは楽しそうに言った。
アルとレネオは、町の外でのクエストは北門から行くものしかやったことがなかった。
あとはウォルテミスの中のクエストぐらいだったので、北門以外から出ること自体が初めてだった。
「なんだ、初めてなのか! あたしらはコールトン出身だからな。最初にウォルテミスに来たのが西門からだし」
「ええ。コールトンは西門から出る街道を、ずっと行ったところなので」
エリーとシンシアがそう説明した。
ウォルテミスの西側はエリー達のいたコールトンもある、エイマーズ伯爵領方面だった。
ただ、ボロール山岳地帯は二人とも知らないので、久しぶりの冒険を楽しみにしていた。
「それじゃ出発しようぜ!」
アルがそう言いながら地図をしまうと、四人は西門を出発した。
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