第51話 掃討作戦終了

 リッチを相手にするのは、フォルカー達でも苦戦していた。

 アル達の知らないそいつは、魔法使いや僧侶が自らアンデッド化した、スケルトンなどより遥かに上位クラスのモンスターだった。


 リッチはフォルカー達の総攻撃に耐え、すぐさま魔法で反撃をしている。

 僧侶がターンアンデッドを使う暇なく回復魔法を掛けて続けていることで、その攻撃威力の高さをアル達にも伺えた。


 そのまま戦闘を続けたらフォルカー達が負けていたが、ランクDとソロ5人の2パーティが参戦することで、なんとか攻勢に転じた。

 そして朝陽と同時に、僧侶のターンアンデッドがリッチにトドメをさし決着がついた。


「ちくしょお……、またかよ……」

 アルは何もできなかったことに悔しさをにじませた。


 リッチとの戦いにアル達は役に立たないと、見ていて理解できた。

 むしろ参戦したら足を引っ張ることになっただろうが、離れて見ているだけは辛かった。


「なんだよ、この終わり方……」

 エリーがその場に膝を着いた。


「一応、モンスターも現れなくなって、戦闘は終わったみたいだけど、後味悪い感じになったね」

「ホントですね。あの方たちは大丈夫でしょうか」

 レネオもシンシアも、終わった達成感は少しもなかった。


「とりあえず僕らも行ってみよう」

 最初に攻撃されたランクEパーティに、回復魔法を掛けているのが見え、レネオが三人に言った。


 アル達四人が近づくと、フォルカー達は皆沈黙していて、空気が重いのを感じた。


「どうしたんだ? 大丈夫だったのか?」

 アルが耐えられずフォルカーに尋ねた。


「助かったのは二人だけじゃ。四人はダメじゃったよ……」

 フォルカーはアルの方を見ず、そう答えた。


 アル達は倒れているメンバーに目を向けると、四人が干からびたようになっているのに気付いた。


「だ、ダメって何だよ。ダメってどうゆうことだよ。回復魔法をこれから掛けるんだろ?」

 アルはフォルカーに詰め寄るように言った。


「アルッ!!」

 レネオが大きな声で名前を呼ぶと、アルはビクッと身体が動き、固まったように黙った。


「アル。人はHPが0になったら、死んだら、もう回復魔法は効かないんだ」

 レネオはアルの肩に手を置き、そう続けた。


 アルにも分かっていた。


 彼らは死んだんだ。

 あのリッチとかいう強力なモンスターの一撃で。

 そして、レネオに止められなかったら、アルも同じように。


 レネオも冷静でいたわけではなかった。

 アルの肩に置いた手は震えている。


 シンシアは泣き出し、エリーはグッと堪える表情をしながらシンシアを抱きしめている。


 アル達は四人とも、人の死をこれほど身近に感じたことはない。

 亡くなったランクEパーティのメンバーは、正直名前も知らなかったが、半日ほど前に初めて会い、彼らが話し、彼らが戦うところを見ていた。

 それが今は、彼らは何も表情がなく、一つも動くこともない。


 冒険者が命懸けの職業なのは最初から理解していたが、初めてそれを実感することになった。

 そして、改めて自分たちがやっている冒険者がどういうものかを――――。


「こんなところにいたらアンデッド化するかもしれねえ。とりあえずここを去ろう」

 誰かがそう言うと、四人の遺体を皆で持って、南側チームは遺跡をあとにした。



 掃討作戦が終了し、最初の集合場所に全員が戻っていた。


「今回の作戦での犠牲者は、あの四人だけだそうだ」

 アルがパーティ代表として作戦犠牲者の埋葬に立ち会い、戻ってきたところで言った。


「そっか……」

 レネオが元気なく答える。


 アル達四人は、心身ともに疲れ果てていた。

 集まった冒険者たちは解散し、どのパーティも帰り支度をしているが、アル達はほとんど何も喋らず、それぞれが自分の中で心の整理をしていた。


 冒険者が危険と隣り合わせなのは承知していたし、誰かの死を見たせいで辞めようと思うこともない。

 それでも、これからどうしていいか分からないような、居たたまれない気持ちになっていた。


「よお、お前ら無事で良かったな」

 沈んでいたアル達の元に、スパーノが声を掛けてきた。

 すぐ後ろにデニスの姿も見える。


「スパーノさん……。デニスさん……」

 アルが気の抜けた返事をした。


「何だお前ら、元気ねえな。自分たちが無事だったことを、もっと喜ばねえと」

 スパーノは、アルの胸をコンコンとノックするように叩きながら言った。


「そんなこと言われてもさ……」

 エリーが小さな声で反応した。


「お前ら、スパーノ殿の言う通りだぞ。こんなこと言っては何だが、冒険者が死ぬことはよくあることだ。日々、死んでいく者たちと、生き残った者たちに分かれていく。今回、お前らは生き残った側に入れたんだ。それを喜ばないでどうする」


 デニスは、そう言いながら全員の目を見て、

「じゃないと、次はお前らが死んでいく側になっちまうぞ。いちいち落ち込んでないで、前を向かないとな!」

 と続けた。


「そうですよね。今までも、これからも、僕らは生き残る側にいられるよう、できることをやっていくしかないですね」

 レネオはデニスを見てそう言った。


「そうそう、それがいいと思うぞ。ところで、お前らは今後どうするつもりなんだ? 混んででもウォルテミスダンジョンで頑張るのか?」

「いや、正直どうしようか迷ってて……」

 アルがデニスの質問に答えた。


 アルは言葉通り迷っていた。


 ダンジョンクエストで少し空いているのは、地下三階までのクエストぐらいなのだが、四人でやるには報酬の効率がよくない。

 今回は丁度いいタイミングで共同クエストがあったが、他のクエストは目ぼしいものは見当たらなかった。


「良いクエストがないか探し中なんです」

 レネオが補足した。


「そっか。ここで再会したのも、スパーノ殿の知り合いだったのも何かの縁だし、お前らに良いもの教えてやるよ」

 デニスはアルに肩を回した。

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