第50話 エルゴナ寺院遺跡掃討作戦

 エルゴナ寺院遺跡はアル達の想像よりもずっと大きな遺跡だった。

 名前から大きな寺院が一つあるのかと勝手に思っていたのだが、一つの村ほどもあると思われる広大な敷地に、いくつもの建物がある寺院群だった。


「これほどまでの広さと、アンデッドは夜しか現れんせいで、ウォルテミス議会はモンスター大量発生に気付くのが遅れたらしいの」

 アル達がその広さに驚いていると、フォルカーが説明してくれた。


「なるほど、それで後手になってしまったんですね」

 レネオが答えた。


 それからは静かな時間が流れた。

 冒険者たちは遺跡を四方向から囲み、茂みの中でじっと攻撃の合図を待った。

 アル達四人はその時間、それぞれ心を落ち着かせ、いつでも攻撃できるよう身構えた。


 夜明け前、少しだけ空の黒さが薄くなる頃、パーンという音と共に大きな光の玉が空に発生した。

 デニス達がいる西側チームが放った、ライトの上位魔法だ。


 ライトの魔法より遥かに広範囲を明かりで照らす。

 そしてそれが突撃の合図だった。


「突撃じゃあぁぁっ!!」

 フォルカーが野太く大きな声をあげ走り出した。

 アル達からは見えないが、他の3チームも同時に攻撃を仕掛けているはずだ。


「俺たちも行くぞ!」

 アル達も少し間を置いてから、遺跡に向かって駆け出した。


 遺跡の敷地内に入ると、大量なアンデッドが四人の視界に入ってきた。

 剣を持っている骸骨がスケルトン。遠目では人間に見えるが不自然な動きをしているのがゾンビ。

 情報どおりほとんどがその2種だったが、たまに見える半透明で飛び回っているモンスターが霊体系だろうとアルは思った。


 戦闘に入ると、前を行く3パーティは凄まじい強さだった。


 前衛職は当たり前のように敵を全て一撃で葬り、フォルカーに至っては大斧の一振りで二体ずつ撃退している。

 魔法使いは範囲魔法を唱え、同時に複数のアンデッドを倒している。


 そしてこの戦いで最も活躍しているのは、ターンアンデッドを使える高レベルの僧侶。

 フォルカーのパーティにいるその僧侶は、自身の周りにいる多数のアンデッドを一瞬で消滅させた。


(俺たちいらなくねえか?)


 彼らの活躍を見ていたアルは少しそんなことを考えたが、あまりにも大量に発生しているモンスターの数が、その考えをすぐに否定した。

 3パーティを抜けて、後方に向かってくるモンスターが現れだした。


「来るぞ!」

 アルは他の三人に声を掛け、剣を構えた。


 近づいてくるのは人間型のスケルトンとゾンビ。

 フォルカー達は霊体系や人間型以外のアンデッドを優先して攻撃し、後方に行かないようにしていた。


「よし、いけそうだね!」

 アルとエリーがそれぞれ一体のモンスターを難なく倒すと、レネオが言った。

 今回は初めてのアンデッドということと、相手に囲まれる危険性を考慮し、撤退の判断は後衛のレネオがすることになっていた。


「当然だぜ!」

 アルはそう言いながら、次々とモンスターを倒していった。

 一体一体はゴブリンより少し強い程度だった。


 それからは我慢の戦いが続いた。


 それぞれの個体が強くないと言っても、倒しても倒してもモンスターが現れ、永久に減らないんじゃないかと思わせるほどの数は、冒険者たちを疲弊させた。

 モンスターの数が減っていると実感できるまでは、それなりの時間が掛かった。


「はあ、はあ……。休憩なしでこんなに戦い続けるのはきついぜ……」

「アル、疲れたんならあたしの後ろにでも隠れてな」

「誰が疲れるか!」


 アルとエリーは憎まれ口をなんとか言い合うが、一体を倒すのに掛かる時間が明らかに長くなってきた。


(まずい、二人の疲労が大きくなってきたみたいだ。僕のMPも底をつきそうだし。でも数が減ってきたから、そろそろ前を抜けてくるモンスターもなくなると思うけど……)

 レネオは決着の時は近いと判断し、ここは堪えて戦闘を続行することにした。


「キャー!!」

 突然、辺りに誰かの悲鳴が響いた。


 アル達はその悲鳴が、隣で戦っているもう一つのランクEパーティからだと気付き、彼らの方に視線を向けた。


「な、なんでしょう……、あれ……」

 シンシアが脅えながら声を発した。


 彼らはアル達と同様、人間型のスケルトンやゾンビと戦っているはずだった。

 ところが彼らと戦っているモンスターの中に、異質な存在が混じっていた。


 スケルトンのように見えるが、一回り大きく、ローブを着て、手に持っているのは剣ではなく魔法使いの杖のようだった。

 その異形のモンスターは周りに恐怖を与え、アル達は一目見ただけで全身に寒気が走った。


 そしてそいつは杖を掲げると、彼らに向かって闇属性の範囲魔法を放った。


「逃げろおぉぉっ!!」

 アルが大声を出すが、声が届くより早く、黒い何かが彼らに命中し、全員が倒れ込んだ。

 アル達はその魔法が何か知らなかったが、極めて危険な魔法だと直感した。


「くそっ!」

 アルが援護に向かおうとすると、

「行くなぁ! アルッ!!」

 強い口調でレネオがアルを止めた。


「行かねえと!」

 アルはそう言ったが、見たこともない真剣な眼差しのレネオに気付き、踏みとどまった。


「下がるんじゃ! それは、リッチじゃ!!」

 その光景に気付いたフォルカー達が助けに向かってきた。

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