第49話 南側チーム

「レベル20!?」

「たった一年でですか!?」

 アルとレネオは、スパーノの話を聞いて思わず一歩前へ出た。

 冒険者を始めてもうすぐ一年になる二人は、まだレベル11だった。


「ああ、たった一年でレベル20だ。冒険者がレベル10から20になるのには、平均五年と言われている。彼がとんでもなく努力家なのか、『異世界人』が皆そうなのかは分からないが、それは紛れもない事実だった」


「なんかすげえけど、別世界の話過ぎてピンとこねえな」

「そうですね、私たちとは違いすぎて……」

 エリーとシンシアは現実ではない物語を聞いている気分だった。


「はいはい。話はここまでだ。これからチーム分けをして、細かい作戦を指示するから、それまで待機していてくれ」

 デニスが異世界人物語を止めた。


「あ、最後に、『異世界人』はその後どうなったんですか?」

 レネオは別れ際に、再度質問をした。


「ショウヘイを見たのはそれで最後だ。その後は見ることも、噂を聞くことも一度もなかった」

「そうですか、ありがとうございます」

 レネオは、それほどの魔法使いが、その後どうなったか分からないことを不思議に思いながらも、スパーノに頭を下げた。


 それからアル達は、おとぎ話を聞いた後のような気持ちから現実へ切り替えて、デニスの作戦詳細を聞いた。



 アル達のパーティは、遺跡の南側から乗り込むチームに組み込まれた。

 南側チームは、ランクCとDがそれぞれ1パーティ、ランクEが2パーティ、レベル20台のソロ5人で組んだ野良パーティ。

 ランクEと言っても、もう一つのパーティはレベル10台後半なので、アル達が圧倒的に低レベルだった。


「ワシは南側チームのリーダー、戦士フォルカーじゃ。お前たちは人間型のスケルトンかゾンビのみを相手にするんじゃぞ。もしそれ以外のアンデッドが現れたら、すぐに距離を取るのじゃ、いいな」


 アル達にそう話しかけてきたのは、ドワーフのフォルカーだった。

 長く大量の髭を蓄え、自身の身体と同じぐらいの大斧を背中に背負っている。

 ドワーフを見慣れていないアル達は顔の見分けがつかないので、フォルカーの装備をしっかり見て、彼を覚えるようにした。


「ありがとうございます。僕らも実戦経験はありますので、自分たちが戦える相手かしっかり見極めて挑みます」

 レネオはフォルカーに答えた。


「がっはっは。それでよろしい」

 フォルカーは見かけに寄らず人懐っこい笑顔を見せた。


 フォルカー率いるランクCパーティは、ウォルテミスには珍しい多種族パーティだった。

 5人パーティのうち人間は一人だけで、ドワーフ、ハーフエルフ、小人族、獣人の組み合わせだ。


 ほぼランクEしかいない北エリアの冒険者ギルドは、利用者の9割が人間だった。

 そんな光景しか普段見ていないアル達は、人間以外の冒険者が多数いるところでも、いつものクエストとの違いを感じていた。


「じゃあみんな、作戦を確認するから集まって」

 レネオはアル達を集めると、出発前に作戦内容を念押しした。


「事前の偵察で高レベルのアンデッドが確認された西側を、デニスさん達が率いるチームで攻め込んで、最も手薄な南側が僕らの担当だ。攻め込む際はランクEの2パーティは後方に位置し、前方の3パーティが打ち漏らした敵をかたずけていくのが僕らの役割だね。と言っても数倍の数のモンスターを相手にするので、油断は禁物だ」


「ああ、分かってる。囲まれないよう気を付けながら戦うさ。なあ、エリー?」

「アルの言う通りだ。あたしら前衛の二人に任せておきな」

 レネオの説明に、アルとエリーは力強く答えた。


「シンシアは念のため、防御力をアップさせる『ガード』をエリーに掛けておいて。あとは回復に専念をお願い」

「はい。回復は任せてください」

 シンシアは持っている錫杖しゃくじょうをぎゅっと握りしめた。


「僕はフレイムアロー専門になりそうだね、アンデッドにスリープは効かないから。あと、霊体系のアンデッドが現れたら僕が相手するから、すぐに言ってね。通常の武器ではダメージを与えられないらしいよ」

 レネオは自分の役割も改めて確認した。


「銀の武器か、魔法の武器じゃないとダメなんだっけ?」

「うん、どっちも高価な武器だし、装備に必要なレベルも高いから、手に入れるのは当分先になりそうだね」

 アルの質問にレネオが答えた。


「よーし、それではみなさん! チームごとに移動を開始してください!」

 そうこうしているうちに出発の時間になり、デニスが全員に向かって号令をかけると、冒険者たちは四つに分かれ移動を始めた。


「ワシらも行くぞ!」

 フォルカーは南側チームに声を掛け、先頭を歩き出した。


 先ほどまで談笑していた冒険者たちも、一気に顔が引き締まり、作戦本番が近づいてきている緊張感に包まれた。

 アル達パーティも、周りの緊張感を感じ取り、いつものような軽口を叩くことなくついて行った。


 夜もだいぶ深くなり、タオスの森は暗く静かだった。

 冒険者たちはモンスターに気付かれないよう、月明かりだけを頼りにエルゴナ寺院遺跡を目指し森を進んだ。

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