第48話 異世界人
「そうか、そろそろ『異世界人』を知らない世代がいるのか。アルとレネオも知らないのか?」
「ちょっとだけレネオに聞いたことあるってとこかな」
「僕は本で少し読んだ程度で」
アルとレネオがスパーノに答えた。
「なるほど。せっかくだから彼らのこと、説明してやるか」
スパーノは『異世界人』のことを語りだした。
「彼らはこの世界とは違う別の世界からやって来る、異世界からの訪問者たちと伝えられている。その存在は遥か昔、魔王が存在していた時代から確認されていて、俺たちの世界に大きな変化をもたらしてきた。」
スパーノはアル達四人が、真剣な眼差しで聞いているのを確認しながら話を続けた。
「ただ、彼らの人数は少なく、表舞台に出てこない『異世界人』もいるため、単なる作りモノの物語で、実在しないのではないかと言われた時代もあったようだ。ところが、100年ほど前の出来事で彼らについての認識が一変した。レネオ、知ってるか?」
「はい! 王都セントグレスリーの中にあるテオド遺跡に、突然30人の『異世界人』が同時に現れたって話ですね!」
スパーノに話を振られ、優等生レネオはすぐに答えた。
「そうだ。同時に30人も現れることで、それまで歴史上の存在でしかなかった『異世界人』が、実在する人物になったのだ。彼らは自分たちが異世界から来た訪問者であることを理解していて、歴史に語られてきたように、この世界に大きな影響をもたらした」
「そいつらはどんなことをしたんだ?」
話に引き込まれていたエリーは、無意識にスパーノへ質問をした。
「ある者は戦争の勝敗を左右するほどの戦士に成長し、ある者は魔動力の技術を開発し、ある者は国を作ったと言われている。彼らが何のためにやってきたのかは不明だが、彼らがもたらしたものは大きかった」
スパーノの話は若者たちの好奇心を刺激する。
「その後、新たに『異世界人』が現れることのない時期が続いたが、今から15年前、テオド遺跡に今度は100人の『異世界人』が現れた」
「100人も? スパーノさんはその一人に会ったのか!?」
アルは思わず口を挟んだ。
「ああ、俺が会ったのはその中の一人だ」
「おお!」
アル達の目の輝きが増した。
「彼ら『異世界人』は王都セントグレスリーのテオド遺跡に現れたのだが、すぐに世界中に離散した。俺の故郷であるイリオンにも、彼らがテオド遺跡に現れた二日後にはその一人がやってきた」
「二日後に? どうやってですか?」
レネオは説明に引っかかり、スパーノに訊いた。
「それが、どうやってなのかは分かってない。レネオが気になる通り、王都セントグレスリーから二日でイリオンに辿り着くことは不可能だ。飛竜に乗っても十日ほど掛かる距離にあるのだが、彼は二日でイリオンへやってきた。イリオンだけではなく、その日は100人それぞれが世界中の至る所に現れたらしい」
「ちなみにウォルテミスにも来たらしいぞ」
デニスが補足した。
「獣人の国イリオンに人間の冒険者が来るのも珍しかったのだが、異世界から来た彼は
「同じパーティだったのか! すげえー!!」
アルが嬉しそうに反応した。
「彼と組んだのは一回だけだ。俺たちのパーティは初めてのダンジョンクエストに向かうため、魔法使いを探していた。その『異世界人』はたまたま魔法使いで、参加を申し出てくれた。パーティメンバーのレベルは皆11。彼はレベル10で、それが初めてのクエストだったそうだ」
「初めて!? 初めてのクエストでダンジョンって無理じゃねえか?」
エリーが無謀な『異世界人』に対してもっともな意見を言った。
「そうなのだが、俺たちも初ダンジョンだったのもあり、『異世界人』に興味もあったので、快く参加を受け入れた。彼は19歳の男でショウヘイと名乗った」
「それで、その『異世界人』とのダンジョンはどうだったんですか?」
同じ魔法使いとして、レネオは強い興味を示した。
「それが、最初は想像以上に臆病で、初めて見るモンスターに悲鳴に近い声をあげた。さらに、戦闘に慣れてないどころか、魔法使いのくせに魔法を使うことに慣れてない様子だった」
「慣れてないって、それじゃスキルレベルが低いままじゃ……」
レネオが当然のように言った。
「ところが、彼が使う魔法はレベル10の新人とは思えないほど強力だった。彼は二戦目には戦闘に慣れると、あっという間にパーティの中心戦力になった。俺たちは『異世界人』の新人魔法使いの強さに
「レネオ、魔法ってスキルレベルが低くても使えるのか?」
アルは疑問に思いレネオに訊いた。
「そんなことはないよ! スキルレベル2までは発動もしないし、3でも魔法が発動するだけで、攻撃力はまったくないと言ってもいい。4になれば多少実戦でも使えるけど、4に上げるのだって魔法を100回や200回は使わないと。魔法を使い慣れてないなら4にもなってないはず!」
レネオは少し早口でそう言った。
「そう、ショウヘイがどれほど才能があろうと、魔法のスキルレベルが低かったらそれほどの攻撃力があるはずはない。俺たちも同じように疑問に思い、彼にスキルレベルを尋ねてみたところ、彼の答えは7だった」
「7!?」
想定外の答えに皆が驚いた。
「話だけ聞けば、そんなわけがないと思うだろうが、目の前で見ていた俺たちはショウヘイの言葉を信じた。俺が彼とパーティを組んだのは、その一回だけだ」
「すげえ話だな! それが『異世界人』の力ってことか」
アルは別世界の話に胸を弾ませた。
「話はまだ終わってない。彼とパーティを組んだのはその一回だけだが、その一年後に彼と再会した。俺はレベル13になったのを機に、大きな町へ移り住み始めたころだった。で、その町の冒険者ギルドに訪れたとき、隣の受付で偶然ショウヘイを見掛けた」
「それまで会うことはなかったのですか?」
シンシアがスパーノに質問した。
「ああ。パーティから抜けて以来見なくなったんで、たぶんすぐ違う町へ行ったのかもしれないな。俺はレベル13になりあの頃より少し強くなった自分を見せたくて、久しぶりにパーティを組もうと声を掛けようとした。ところが、冒険者ギルドの受付とショウヘイの会話を聞いて声が出なくなった」
スパーノは話を聞いているアル達を見回し、話を続けた。
「彼はたった一年でレベル20になっていた」
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