第44話 習得訓練
「よお、お前が戦士アルだな。オレは戦士ギルド所属のフランクだ、よろしくな!」
フランクは鎧を装備しているわけでもないのだが、
「はあ」
アルはキョトンとしながら返事をした。
「はあじゃねえよ! これからオレが盾攻撃を教えてやろうって言うんだ。二週間ぐらいになると思うが、よろしくな!」
「ああ、おっちゃんが教えてくれるのか! よろしく頼むぜ!!」
「は? ふざけんな! こう見えても35歳だ、おっちゃんじゃねえ!」
「あ、えっ?」
(35歳っておっちゃんじゃん)
アルは一瞬そう思ったが、
「そっか……、フランクさんよろしくな!」
と言い直した。
「おお、こちらこそな! じゃあ早速だが、訓練を始めるんでついてきな」
フランクはそう言って、奥へと歩き出した。
「あ、おい」
アルはいきなりで戸惑いながら、立ち上がってフランクの後を追った。
外からでは気付かなかったが、戦士ギルドの敷地はかなり広いようだ。
フランクについて行くと、奥には広い訓練場のような場所があり、すでに何人かが訓練をしている最中だった。
「お前の場所はここな。自分のじゃなく、その盾を使うんだ」
フランクが差した先には、訓練用の大きな盾が置いてあった。
「これか?」
アルは
それは木製の盾だったが、アルの身長より少し小さい程度の長さで、かなり分厚く作られている。
使いづらく、とても実戦で使用できる
「まだレベル11だと重くて仕方ないだろうな。じゃあその盾を構えたまま、その鉄の杭に体当たりしてみろ」
「ん? こうか?」
アルは重たい盾を構え、そのまま杭にぶつかっていった。
「は? お前舐めてんのか? これは訓練だぞ、力抜いてどうする!」
フランクは強い口調で言った。
「ちっ、分かったよ。はああぁぁぁ!」
今度は思いっきりぶつかっていくと、低く鈍い音とともに、想像以上に大きい衝撃を受け、アルは跳ね返るように飛ばされた。
「
「はっはっは。構えも甘く、踏ん張りが弱いからそうなるんだ! もっとこう腰を落として、もう一度やってみろ」
フランクは構えの形を見せ、再度促した。
「くそっ、これでどうだ!」
アルはもう一度杭にぶつかっていくと、多少マシになったものの、同じように跳ね返った。
「まあ最初はこんなもんか。ほら、杭のとこ見てみろ。数字が見えるだろ?」
「ん? 2?」
アルは鉄の杭に数字が表示されているのを読んだ。
「ああ、そうだ。最初のは弱すぎてカウントされてねえ。お前がしっかりぶつかると、あの数字が増えていくようになってんだ」
「はあ、それで?」
「今日はあれが300になるまで続けろ。1日目はそれで終わりだ」
「300!?」
「少ないか? なら増やそうか?」
「いや! 300でいい!!」
「そっか、それならいいが。じゃあしっかりやるんだぞ。手を抜くと習得が遅れるからな」
フランクはそう言うと、眠そうな表情で去っていった。
(なんだ、教えてくれるんじゃなかったのかよ)
アルは少し不満に思いながらも、杭への体当たりを続けた。
最初のころは何度やっても跳ね返って転んでいたアルだったが、
「んー、腰に力を入れるタイミングと姿勢によっては、うまく耐えられるみたいだな」
と少しコツを掴むと、二回に一回は跳ね返りを耐えるようになっていた。
若さゆえだからか、手にマメができようが、マメが潰れ血が出ようが、特に苦に感じることもなく、その後もアルは夢中で訓練を続けた。
そして日が暮れる前には、杭の表す数字が300を越えていた。
「アル殿。今日はこの辺でよろしいかと」
イーサンが数字に気付いてないアルに声を掛けてきた。
「あれ? もう300越えてらあ」
アルはその声で数字に気付き、力が抜けるように座り込んだ。
「はい。訓練はまだ始まったばかりでございます。無理はされず、また明日からしっかりなさいませ」
イーサンはゆっくり頭を下げて立ち去った。
アルは、それもそうだなと立ち上がると、訓練用の盾を元の位置に戻し帰ることにした。
その夜、部屋に戻ると疲れが一気に噴き出し、レネオとあまり話す間もなく眠りについた。
それから四日間、訓練は同じ内容の繰り返しだった。
フランクはたまに見に来て、姿勢や力の入れるタイミングのアドバイスをするぐらいで、基本は一人でやる反復訓練が続いた。
そして六日目。
「よお、アル。今日から訓練内容を変えるぞ。半分はオレとの実戦形式で、残り半分はそれを思い出しながらの杭だ」
フランクはアルと同じ訓練用の盾を構えると、そう言った。
「ああ、何でもやってやるぜ!」
アルも盾を構える。
「じゃあ、まずはオレを杭だと思って体当たりしてきな」
「おっし。そんなら、いくぜええぇぇっ!」
アルはいつものように力を入れ、フランクの構える盾に向かってぶつかっていった。
するとフランクは盾同士が当たる前に軸を少しずらして、アルの盾を受け止めた。
「あれ?」
アルはいつものように強い衝撃を感じず、そのままバランスを崩して転がった。
「ったたたた……」
「なんだ、五日間もやってそんなもんか?」
「っかしいなぁ。もう一回だあぁぁっ!」
アルはもう一度いつものように盾でぶつかっていく。
今度は当たる前に、フランクは半歩前に出て受け止めた。
「ぐあっ!」
アルは初日のように、強い衝撃に跳ね返され転がった。
「なんだよ、フランクさん! いま動いたじゃん!」
「はっはっは、そう、そのとおり! ちょっと動いただけで全然違うだろ? こいつの大事なところは、動いている相手にいかにタイミング良く、力を入れて当たれるかってわけだ。今日からそういう訓練だ」
「なるほどな」
アルはフランクの言っている意味を肌で感じ取り、訓練すべき方向を納得した。
「よし、じゃあ続けるぞ! オレの動きを見ながらしっかりぶつかってこい!」
「ああ!」
アルは自分のやることが見えて、張り切って訓練を開始したが、その日はまったく上手くいかずに一日が終わった。
それでも毎日訓練を続け、少しずつ相手に合わせた動きができるようになっていった。
十三日目。
「よし、そろそろ習得できそうだな。今日もしっかりやるぞ」
「ああ、だんだんコツが掴めてきたぜ!」
実戦形式の訓練は、日増しに本格的になっていた。
フランクは盾だけではなく、訓練用の木製の剣も装備し、受けるだけではなく攻撃も仕掛けてくる。
アルは攻撃を防ぎながら、タイミングを見て盾を相手へぶつける。
その日も、フランクの攻撃を受けながら盾での攻撃を何度も試みていた。
そしてお昼を回って少し経ったころ、強い踏み込みと絶妙なタイミングで、アルの盾がフランクの盾に衝撃を与えた。
「ぐおぉっ!」
フランクが初めて声を上げた。
「なっ……、今のは……」
放ったほうのアルも驚くほど、今までにない衝撃が発生した。
「ふうぅ、あぶねえあぶねえ。今のは完璧だ。どうだ? スキル画面見てみな」
フランクに言われ、アルはスキル画面でエクストラスキルを選ぶと、『盾攻撃』の文字が濃くなっているのを確認した。
「よっしゃあぁ!」
アルは両手を上げて喜ぶと、そのまま地面に寝ころんだ。
「どうやら習得できたようだな。これで訓練は完了だ!」
フランクはアルを見下ろしながら、そう言った。
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