第42話 新年度のはじまり

 アル達が四人でパーティを組むようになってから、一か月以上が過ぎた。

 可能な限りダンジョンクエストを実施し、適当なクエストがないときもモンスター生息エリアでの戦闘系クエストをすることで、効率的にお金を稼げるようになっていた。


 今日も朝からクエストを探しに、四人は北エリアの冒険者ギルドへやってきた。


「な、なんだこの人の数は……」

 中へ入ると、狭い冒険者ギルドが溢れるほど人だかりができているのに、アル達は驚いた。

 三つしかない受付窓口は、いつもの倍以上の列ができている。


「な、なんでしょう、この人の多さは」

 シンシアが大勢の人で酔いそうになりながら言った。


 普段は見慣れた顔がほとんどだが、今朝は見たことのない冒険者がたくさんいた。

 アル達は状況がつかめずにいたが、とりあえずジャンのいる列に並んで順番を待つことにした。


「なんだか今日は騒がしくねえか?」

 エリーが待っている間にそうこぼした。


 いつもより人が多いので、その分騒がしくなるのは当然なのだが、エリーは騒がしいパーティが多いと感じていた。


「たしかに。みんなよくしゃべるというか、楽しそうというか……」

 レネオはエリーの言わんとすることを理解した。


 アル達は少し苛立ちを覚えながら並んでいた。

 ただでさえ列が長いのに、一組一組の時間も長いようだ。このままではジャンと話すころには昼になるのではと思うほど、列の進みが遅かった。


「おっちゃん……、なんで今日は人がこんないるんだよ…」

 やっとの思いで順番が回ってくると、アルは受付台にもたれかかりながら訊いた。


「おう、おまえらか。まったく毎年この時期は大変だぜ。昨日はこの町の冒険者学園の卒業式でな、今日はその卒業したやつらがみな冒険者登録に来てんのさ」

「なるほど、そうでしたか。そういえばそんな時期ですもんね」

 レネオが納得したような表情で言った。


 この町ウォルテミスは、王国第二の都市ということもあり、規模の大きい冒険者学園が創設されている。

 冒険者学園は三年制で、毎年百人以上が入学し、百人以上が卒業をする。

 今年もたくさんの若者が、今日冒険者生活を始めたのだ。


「学園の卒業生ってことは、あいつらはあたしらの二つ上か」

 エリーがそう言うと、

「ああ、そうだ。新人の冒険者だが、おまえらより年上で、おまえらよりレベルも高い」

 とジャンは返した。


「ふうん。ま、俺らにはあんま関係ねえな。おっちゃん、今日はダンジョンクエストあるか?」

 アルは卒業生たちに興味もなく、すでに今日のクエストへ気が向いていた。


「あるにはあるが――――。そうだな、試しに行ってみるんだな」

 ジャンは含みのある言い方をすると、ウォルテミスダンジョンの魔鉱石収集クエストを提示した。


「なんだ、あるじゃん。待った甲斐があったぜ。おっちゃん、これ受領な」

 アルがそう言うと、ジャンは何故かいたずらな表情をしたのを、レネオは見逃さなかった。



 それから、四人がホブゴブリンのいるウォルテミスダンジョンの地下四階に着くと、ジャンの表情の意味をすぐにレネオは理解した。


「こっ、ここも混んでるね……」

 冒険者学園の卒業生と思われる冒険者が、地下四階に大勢やってきていた。


「な、なんだよ。何パーティいるんだよ」

 エリーは地下四階を進みながら、この間までと違うダンジョンの雰囲気に戸惑っていた。


「どのパーティもライトの魔法をされているので、松明いらないですね」

 シンシアは明るいダンジョン内を見渡しながら、松明を持ってるアルに話しかけた。


「ああ、そうだな。こんなに人がいちゃ……」

 地下四階を一通り回ったところで、戦闘は一度もなかった。

 たまに近くにモンスターを見かけても、すぐに他のパーティが戦闘を仕掛け、アル達の出番はなかった。


 地下五階に降りても状況は同じで、どの部屋どの通路に行っても、他の冒険者達が居座っていた。


「どうやら彼らは、場所を動かないでモンスターが発生するのを待ってるみたいだね」

 レネオが冒険者学園の卒業生達を見て、そう気付いた。


「なるほど。たしかにモンスターの沸く場所はある程度決まってるから、それも有りかもな」

 そういう戦い方もあるなと、エリーは少し感心した。


「んー、どうすっか。明日もこんなんかな?」

「さあ?」

 アルの問いに、みな答えを持っていなかった。


「戻るか……」

 このまま途方に暮れても仕方ないので、今日はひとまず町へ戻ることにした。



 冒険者ギルドに戻ると、中途半端な時間なのもあり、中はだいぶ空いていた。


「おっちゃん、ぜんぜん戦闘にならねえよー」

 アルは受付に着くと、ジャンに苦情を言った。


「はっは。そうだろう。おまえらは卒業生とレベルが近いから狩場がかぶるんだよ。この時期どの戦闘クエストも一ヶ月はあんな感じだ」

「ええぇ、一ヶ月もぉ!?」

 アルは戦ってもないのに、どっと疲れた気がした。


「なあ、どうしよう?」

 アルは振り向いて言うと、三人もどうしたもんかと反応に困っていた。


「ジャンのおっちゃん、なんか良いクエストないのかよ」

「そうだなぁ。おまえらも早めにダンジョンに行って、モンスターが沸く場所を確保するしかねえんじゃねえの?」


「そんなー」

「あ、そういえばおまえら、それなりに金は貯まったか? エクストラスキルでも習得したらどうだ?」


「エクストラスキル?」

 アルの目が輝いた。

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