第37話 四人パーティ

「ここがウォルテミスダンジョンの入口だよ」

 四人がダンジョンの入口に着くと、レネオは言った。


「よし、今回は四人だ! 絶対地下三階まで行ってやるぜ!」

 アルが気合を込めて言う。


「さすがに雰囲気あるぜ」

「うん、ちょっと怖いかも……」

 エリーとシンシアは、初めてのダンジョンに緊張している様子だ。


「それじゃ行くぞ。低階層には罠はないらしいから、シーフが前に行く必要はなさそうだ。俺が先に行くからな」

 アルが松明を掲げ一歩踏み出した。


「何だよアル。まるで戦士みたいに言うじゃねえか」

「戦士だよ!」

 アルはエリーに言われ、思わず強く言い返した。


「はは、冗談だよ冗談」

 エリーは笑ってアルの肩を叩いた。

 そんな様子を見ていたシンシアは、クスっと笑い緊張が溶けていた。


(なるほど。今のはエリーがシンシアを勇気づけていたのか)

 最後尾でレネオが、エリーとシンシアの絆を感じていた。



 四人がダンジョンを進むと、最初の遭遇は今回もゴブリン三匹。

 まるで出てくるモンスターの数が決まっているかのようだった。


「話したとおり、俺たちだけで行くぞ!」

 アルが装備を構えながら走り出した。


「ああ、分かってる、任せな!」

 エリーが短剣を構え、アルの後に続いた。


 ゴブリン三匹のとき、まずはアルとエリーだけで戦おうと決めていた。

 レネオとシンシアは、相手の視界にわざと入るよう牽制けんせいはするものの、何もせず見守った。


「うおっりゃあぁぁっ!!」

 アルが両手で斧を持っているゴブリンに攻撃を仕掛けた。


 ゴブリンはすぐに自分がターゲットであることに反応し、アルの剣を斧で防いだ。

 しかし、すかさずエリーがアルの前に出て短剣で斬り刻むと、大量の血を吹き出し動かなくなった。


(早い!?)

 アルとレネオは、エリーの素早い動きに揃って驚いた。


「ギイィィィィィッ!」

 エリーの近くにいる盾を持ったゴブリンが、奇声を上げて彼女に襲いかかった。


「させるかよ!」

 アルは間に割り込むと、ゴブリンの攻撃を盾で防いだ。


「さんきゅー!」

 そう言って、エリーはあっという間にそのゴブリンも斬り刻むと、二対三だったはずが、もう二対一になっていた。


 最後に残ったゴブリンは、それでも臆することなく向かってきたが、アルとエリーはなんなく退治した。


「すげえ、シーフってこんなに強いのか」

 アルは剣を鞘に収めると、感心しながら言った。


「戦士ってありがてえな。自分に向かってない敵を倒すのが、こんなに簡単だとは思わなかった」

 エリーも相手を引きつけてくれるアルに感心しながら、一人じゃない戦いやすさに手ごたえを感じていた。


「アル、エリー。凄いじゃないか!」

 レネオが二人に駆け寄ってきた。


「ホント、これじゃ僧侶の私の出番がないですね!」

 シンシアも嬉しそうに続いてきた。


「こっちも驚いたぜ。まさかゴブリン三匹相手に無傷で終わるとはな。前回の苦戦が嘘みたいだ!」

「これがパーティでの戦闘か。あたしらだけの時とこうも違うとは!」

 活躍した当の二人も、想定以上の快勝に少し興奮気味でそう言った。


 四人は戦いの結果に満足するとともに、パーティを組む大事さを強く感じていた。


 その後の戦闘も、予定通りゴブリン三匹~五匹の群れだった。

 三匹のときはアルとエリーだけで戦い、四~五匹のときはレネオが魔法で援護をし、一度もダメージを受けることなく地下二階への階段に着くことができた。


「はは、あっさり前回と同じところまで来ちゃったね」

「ああ、今回は撤退する必要がまったくなさそうだ」

 アルとレネオは、前回のダンジョン探索を思い出しながら言った。


「ここから先はアル達も初めてなんだろ?」

「そうだ。ここからはどんなモンスターが出るのか俺たちも分からねえから、油断するなよ」

 エリーが訊くと、アルがリーダーっぽく皆の気を引き締めて、最初に階段を降りていった。


「はっ、油断なんて頼まれてもしねえよ」

 エリーがそう言いながらアルに続いた。


「じゃあ僕らも行こうか」

「はい」

 レネオとシンシアもアルの持つ松明の光について行った。



 地下二階の広間に降り、アル達は警戒しながら辺りを見回してみたが、地下一階とほとんど変わらない様子だった。

 松明の光は、何の装飾もない石造りの壁を照らす。


「地下一階と雰囲気が一緒ですね」

 シンシアは周りを見て、そう感想を漏らした。


「このダンジョン、何階まであるのか知らねえけど、ずっとこんな感じなのか?」

 エリーは警戒を続けながらも、光のあたっている壁を触ってみると、ただ冷たい石の感触だけが伝わってきた。


「なんだエリー。ビビってんのか?」

「は? お前と一緒にすんなよ!」

 アルとエリーの張り合うような言い争いがこだまする。


「二人とも、そんな大声出すとモンスターが寄ってきちゃうよ!」

 レネオが声を掛けると、

「来るならこい!!」

 とアルが更に声を張り上げた。


 ダンジョンの暗さと静けさは、四人の恐怖心をあおるには十分だったが、若者たちはそれより好奇心がまさり、冒険心をくすぐられ、充実感が満たされていった。

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