第36話 エリーとシンシア

「女?」

 二人を見てアルは思わず声が出た。


 声を掛けてきたのはシーフの少女エリー。

 髪は短く、服装は少しでも身軽にするため、脚の付け根までしかない短いズボンに、胸だけを隠して丈が腹部まで届かない上着。

 革の手袋を着け、膝の上までくる長い革の靴を履いている。

 

 その後ろでくっ付くようにいる長い髪の少女が僧侶のシンシア。

 長いスリットの入った神官服で、十字のネックレスを手に持ったまま、アル達を恐る恐る見ている。

 透き通った空のように青い髪が、より清らかな印象を与えていた。


「あ? 女だから何だってんだ?」

 シーフの少女エリーが、アルの言葉に強く反応した。


「ダメですよ、エリー。初対面の人にそんな言い方しちゃ」

 僧侶の少女シンシアは、いさめるようにエリーの袖を引っ張った。


「あ……いや、わりい」

 アルは、よく分からなかったがとりあえず謝ってしまった。


 レネオはアルと同じように、現れたのが少女であることに驚いていたが、不快にさせてしまったのではと、

「すみません、ちょっとビックリしただけで、深い意味はないです。ねっ、アル」

 とアルを肘でつついた。


「そ、そうそう。女が来るとは思ってなかったから、ビックリしただけだ」

 アルは睨んでくるエリーの視線から目を逸らした。


「ならいいけどよ」

「もう、エリーったら。いきなり突っかからないでください」

 シンシアはそう言って前に出てきた。


「改めまして、シーフのエリーと僧侶のシンシアです。よろしくお願いします」

 アル達に話し掛けるまで緊張していたシンシアだったが、怒り出したエリーのせいですっかり落ち着き、自然な笑顔で自己紹介をした。


「!」

 アルは胸に何かが刺さったような感覚になった。

 最初は気の弱そうな少女に見えたが、周囲も明るくなったようなシンシアの笑顔に、感じたことのない感情に包まれた。


「パーティに応募してくれたお二人ですね? こっちが戦士のアルで、僕が魔法使いのレネオです。よろしくお願いします」

 アルが何も言わない様子だったので、レネオは少女たちに挨拶をした。


「私たち、まだレベル10でダンジョン経験もないのですが、よろしいでしょうか?」

「もちろんです。僕たちもレベル11になってそれほど経ってるわけではないし、ダンジョンには2回行ったことあるだけですので。一緒に行ってもらえると助かります」


 アルとレネオは誰が来ても断るつもりはなかった。

 ダンジョン探索をするためには、パーティメンバーが必要なのは明白だ。15歳の少女が来たのは想定外だったが、歓迎しない理由はない。


 リーダーになっているアルは、パーティステータスを表示し、エリーとシンシアをメンバーに追加した。


 パーティランク E

 リーダー アル レベル11

 メンバー

  レネオ レベル11

  エリー レベル10

  シンシア レベル10

 クエスト

  ウォルテミスダンジョン探索


「では、早速行きましょうか。僕たちが行った時のウォルテミスダンジョンの話は、歩きながら説明します。アル、いいよね?」

「あ、ああ。そうだな」

 少女を前に緊張して口数が減っているアルに、レネオは同意を求めた。


「突っかかって悪かったな。あたしはエリーだ、よろしくなアル」

 エリーはそう言って、アルの背中を強くたたいて歩き出した。


「いたっ」

「あ、すみません、乱暴者で」

 アルが痛そうなそぶりをするので、シンシアはエリーの代わりに謝った。


「シンシア、そんなの謝らなくていい。革の鎧の上から叩いたんだ。痛いわけねえよ! な、アル?」

「あ、ああ。もちろんだ」


(なんだ、この馴れ馴れしい女は……)

 アルはエリーに戸惑いながらも、平静を装って答えた。


「ほら、シンシア行こうぜ。アルとレネオだっけ? あんたらも行くぞ!」

 エリーは三人をかすと、すたすたと冒険者ギルドを出て行った。


「待ってエリー! もう、せっかちなんですから」

 シンシアも冒険者ギルドを出ていき、取り残されるようになったアル達は思わず顔を見合わせて、少女たちに振り回されそうな予感を感じていた。



 四人は冒険者ギルドを出ると、早速ウォルテミスダンジョンへ向かった。

 道中では、アル達が経験したダンジョン内の状況を共有し、どう戦うか話し合っていた。


「言っとくけど、戦闘でシンシアは全然役に立たねえぜ」

「そうはっきり言わないでください……」

「事実なんだから仕方ねえだろ。できねえことはちゃんと言っとかねえとな」


 エリーの話によると、シンシアは戦闘中に使える魔法も棍スキルもないため、もっぱら隠れているだけだった。

 エリーが一人で戦い、終わったらシンシアが回復させる、それが二人の戦い方だったので、戦闘系クエストはあまりやってこれなかった。


「お金が貯まったら、せめて補助系の魔法を覚えたいと思ってます」

「ぜんっぜん貯まらねえんだけどな!」

 シンシアは真剣な表情で言い、エリーはなぜか言いながら爆笑していた。


 同じようなレベルのアルとレネオは、お金を貯められない状況を容易に想像できた。

「僕たちも同じです。二人でクリアできるクエストじゃ生活費ぐらいにしかならなくて」

「それでダンジョンクエストを始めてみたんだけどな」


「そうだったんですね。アルさん達がダンジョンクエストを始めてくれたおかげで、私たちもチャンスができて良かったです」

 シンシアはアルの横につき、感謝するように言った。


「お、お互い様だ」

 アルはシンシアをまっすぐに見ることができず、

「『さん』はいらねえ。アルでいいよ」

 と目を逸らしながら続けた。


「はい、アルたちのおかげです」

 シンシアはもう一度笑顔で言い直した。


 アルが赤い顔をしていると、

「おい、アル! てめえシンシアに惚れんじゃねえぞ!」

 と、後ろからエリーが軽く尻を蹴飛ばした。


「なっ、なっ、なっ、なに言っちゃってんの!?」

 アルは慌てふためいた様子で言い返した。


「アル、言葉が変だよ」

 長年一緒にいて聞いたことがない言葉遣いに、狼狽具合が伝わってレネオは笑ってしまった。


 性別の違うが、アル達とエリー達は年齢が同じというのもあり、すぐに打ち解けていった。

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