第33話 ロアミア教団③
ロアミア教団の調査をしてから数日が経った。
いつもより少し早起きをしたアルとレネオは、ロアミア教団関係のクエストが出たら今度もやろうと話し合っていた。
「あのポーションは何だったんだろうな」
「ジャンさんが今日には分かるって言ってたね。教団が売ってるものだから、聖水かもしれないけど……」
「聖水? なにそれ?」
「えっと、モンスターとの遭遇率が下がったり、アンテッドにダメージを与えたりできる聖なる水のこと。教会で買うことができるんだ」
「へえー。教会でそんなもん売ってるんだな。でもあいつらが売ってるとは思えねえなあ」
「だよね。買ってた人たちも冒険者じゃなかったし、聖水が必要な感じでもなかった。ホントに教団の人たちなのかな」
アル達は男たちの風貌を思い出していた。
この世界には宗教がいくつも存在している。
アルとレネオがいるグレスリング王国も、国教でもあるルマール教を信仰する人たちが多数派だが、他の宗教が認められてないわけではない。
ウォルテミスのような大きな都市になれば、複数の宗教団体が活動を行っている。
ただ、信仰する神の名前が違えど、聖職者たちはみな民の平和を祈り、人々の救済を目的とした活動をしているのが普通だ。
服装も祭服や礼服など、その宗教の由緒ある衣装を纏うことが多い。
アル達が見た男たちは、とても教団と呼ばれるものの関係者には思えなかった。
「いずれにしても、聖水かどうかは冒険者ギルドの結果を待つしかないね」
「まあそうだな。――――それより腹減ってきた。朝飯にしようぜ」
アルはそう言って立ち上がると、一階の食堂へ足を向けた。
「うん、朝食にしようか。スパーノさんがいたら、ロアミア教団のこと何か知ってるか聞いてみるのもいいかもね」
レネオも立ち上がり、アルの後を追った。
ガシャン!!
二人が階段を降りていると、とつぜん下から大きな音が聞こえた。
「何の音だ? 誰か皿でも割ったのか?」
アルが一瞬足を止め、レネオを見た。
「いや、何か怒鳴り声みたいなのが聞こえる。行ってみよう!」
レネオがアルの背中を押すと、少し急いで階段を降りていった。
一階に着くと、割れた皿が床に散乱し、テーブルや椅子がいくつも倒れていた。
大声で騒いでいるのは、ロアミア教団のあの二人組だった。
「ババアのためにこっちは言ってんだ! いいから寄付すればいいんだよ!!」
背が高い方の男が、そう言って近くにあった椅子を蹴り飛ばした。
「ふざけんじゃないわよ! あんたらに寄付するお金があるなら、川に捨てたほうがいくらかマシさ!」
女将のエイダは、一歩も引かず言い返した。
「てめえ、下手に出てるからっていい気になってんじゃねえ!!」
小太りの方がエイダに近づきながら言い放つ。
「そんなにお金が欲しいなら、その余分についた肉でも売って金に換えてみたらどうだい?」
「なんだとお?! くそババアァァッ!!」
エイダの挑発に、小太りの男は顔を赤くしながらエイダに向かって拳を振り上げた。
その様子見を見ていたアルは、小太りの男を体当たりで突き飛ばしエイダを守った。
「お前ら何暴れてんだ!」
アルが転がった男を睨みつけながら言う。
「ってえな、おい!」
小太りの男は、自分を突き飛ばした男が誰か確認しながら立ち上がった。
「エイダさん、大丈夫ですか?」
レネオもすぐにエイダまで駆け寄った。
「あんた達……。こんなやつら相手にするんじゃないよ。二人は部屋に戻ってな!」
助けに入ったはずのアルとレネオを、エイダは拒否するように戻るよう促した。
「何言ってんだ、おばさん! こんな暴れられて、黙ってるわけねえだろ!」
「そうですよ! エイダさんこそ下がって、僕らに任せてください」
アル達はロアミア教団の二人に視線を向けた。
「お前ら冒険者か? 小僧が出しゃばってんじゃねぇよ。ちょっとお仕置きしてやらねえとな」
背の高い男が指を鳴らしながら威嚇してきた。
「アニキ、俺にやらせてくれ。さっきの借りを返さねえと!」
小太りの男も腕を
「レネオ、ここは俺一人で」
アルがレネオを抑えるように腕を横に上げて言った。
ここはクスノキ亭の中。
剣や魔法を使うわけにはいかないが相手も素手だ。
剣を使わなくても戦士のアル一人で十分だと感じ、レネオはいざとなればスリープの呪文を使うつもりで、まずはアルに
「おおおぉぉっ!!」
アルは小太りの男に向かっていった。
(たぶん背が高い方が強え。弱そうな太った男を何発か殴って動けなくして、すぐに背の高い男を!)
アルなりにそう順序立てて攻撃したが、それはすぐに誤算だと思い知らされる。
「ぐはっ!?」
攻撃を受けて唸ったのはアルの方だった。
小太りの男はアルの攻撃を難なくかわし、みぞに拳を入れてきた。その攻撃の重さに、アルは自分より強い男と戦っていることを悟った。
小太りの男は続けざまに2発目3発目とアルを殴りつけた。どれも重い一発だ。
「アルッ!!」
その光景に、レネオは慌ててスリープを唱えようとする。
「おっと。キレイな坊ちゃんの相手は俺だぜ」
呪文が発動するより早く、レネオは背の高い男に蹴られ壁に打ち付けられた。
「おまえらどうせレベル10そこそこだろ? 弱っちい小僧が大人の世界に首を突っ込むもんじゃねえぜ」
背の高い男は、倒れこんだレネオを踏みつけながらそう言ったが、すでに気を失っているレネオには届いてなかった。
「レネオ!? くそぉぉぉっ!」
アルがレネオの様子に気付き、助太刀に向かおうとしていたが、小太りの男に一方的にやられ意識が薄れていった。
(なんだよ、俺……。ぜん、ぜん、弱え……じゃん……)
アルは自分の弱さに悔しさを感じながら、その場で崩れ落ちていった。
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