第32話 ロアミア教団②

 アル達はロアミア教団の事務所近くまで行くと、気付かれない程度の距離から見張りをしていた。


「アル、誰か出てきたみたいだ」

 事務所から二人の男が出てきたのを、レネオが気付いた。


 清潔感のない服装は、聖職者どころか教団関係者にも見えず、強面こわもてで荒くれもののような男たちだ。

 盗賊や山賊と言われても信じる方が多いだろう。


「あいつらは――――。間違いない、このまえのやつらだ!」

 遠くからではあったが、アルはエイダを突き飛ばした男たちだと確信した。


「アル、抑えてよ」

「分かってる。ちゃんと調査するさ」

 またアルが飛び出すんじゃないかとレネオは思ったが、今日は冷静のようだった。


「じゃあ尾行するよ」

 アルとレネオは、忍び足や尾行スキルがあるわけではなかったが、これだけ人の多い町中での尾行だったため、気付かれずについて行くことが容易にできた。


 男たちは隣の地区に移動すると、お店を端から順に入っていった。

 彼らに対してどのお店も明らかに友好的な態度ではなく、中には怒鳴りながら塩を蒔いているお店もあった。

 エイダに聞いた話と同様、一方的に寄付を募っているのだと思われる。


「あいつら、同じようなことをあちこちでやってるみたいだな」

「うん。ギルドに報告できるよう、あとでお店の人たちに、どんな話だったか確認してみよう」


 それから男たちは、飽きもせず夕暮れどき近くまで多くのお店を回っていた。


「おいおい、あいつら何なんだよ。尾行してる俺たちの身にもなれよ」

 尾行しているアルの方が飽きて、だるそうに言った。


「これ以上尾行しても同じかもね。今日は戻ってジャンさんに報告しようか?」

「待て! もう回らないみたいだ」

 アルは様子が変わった男たちを見て、レネオにそう返した。


 アルが言うように、男たちはお店を出ると、次の店を探す素振りもなく歩き出した。


「あいつら、今日は戻る気か?」

「どうだろ。もう少しついて行ってみようか」


 アル達は引き続き尾行すると、男たちは元の事務所とは少し違う方向へ歩いていた。

 大通りから離れ、だんだんと人影が減っていったので、気付かれないよう仕方なく男たちからの距離を開ける。


「待ち合わせみたいだよ」

 レネオが、誰かが男たちを待っていたようだったので、そう言った。

 建物の影から男が現れ、二人に手をあげているところだった。


「あいつらの仲間か?」

 アルは目を細め、遠くに見える三人の男を観察していると、何かを受け渡ししているようだった。


「あれ? あの人たち見えなくなったよ」

「ホントだ! あの脇道に入っていったのかもな。行ってみよう」

 少し気を抜いてる隙に、二人の男は視界から見えなくなっていた。

 アル達はすぐに小走りで追いかけた。


 男たちが見えなくなった付近まで来ると、待ち合わせしていた男がまだそこにいた。

 ロアミア教団の二人は、もう近くにいないようだ。


「なあ、あんた! さっきの二人とは何話してたんだ?」

 アルはその男に話し掛けた。


「あっ? なんだお前ら? お前らには関係ないだろ!」

 男は強い口調とは裏腹に、脅えた目でアル達を見た。


「すみません、今の人たちはロアミア教団の方たちですよね? あなたも教団の方なんでしょうか?」

 レネオが警戒されないよう落ち着いて尋ねた。


「ふざんけんな! 関係ないガキが話しかけてくるんじゃねえ!!」

 男は質問に答えることもなくそう怒鳴ると、逃げるように立ち去って行った。


「なんだアイツ、頭にくんなあ。さっきの二人探そうぜ」

「うん、そうだね。今の人はちょっと感情的だったし、二人の方に行ってみようか」


 その後、アル達は最初の二人を探し回ってみたが、その日は見かけることもなく冒険者ギルドへ戻った。



「なるほど、寄付をするよう店を回っていたか」

 アルとレネオは冒険者ギルドへ報告に行くと、ジャンは考え込むように言った。


「はい。脅すような口調で迫ってくるそうです」

「おっちゃん、あいつらロクな奴らじゃないぜ!」


「何か受け渡ししてたってのも気になるな。おまえら、引き続き明日も頼むぞ。できれば受け渡ししている物が何のか調べてくれ」


「おう、任せな!」

 アル達は使命感を感じながら、翌日からも尾行を続けた。



 尾行二日目は何も起きなかった。

 ロアミア教団の事務所を出入りする人物はおらず、一日中じっと我慢して待つだけだった。

 忍耐というスキルがあったらスキルレベルが上がってるぜ、とアルは部屋に戻ってから愚痴っていた。


 三日目の昼過ぎ、例の男二人が事務所から現れた。

 待ち焦がれていた二人をアル達は尾行すると、その日はお店回りをせず、この前とは違う場所で違う男と待ち合わせをしていた。


 今回は日も明るく、何かを受け渡すのではと注意して見ていたため、アルとレネオはそのやりとりをハッキリ確認した。


「何かを売ってたようだな」

「うん。銀貨をもらって、袋に入れて何かを渡していたね」


 男たちは、またその場をすぐに去っていったようだ。

 アル達は、何かを買ったと思われる男の方を尾行することにした。


 その男は近くの誰もいない広場に行くと、ベンチに座りさきほど受け取った袋を開けた。


「すみません」

 レネオが静かに近寄って声を掛けた。


「ひぃっ」

 男は脅えたように声を出し立ち上がった。


「何を買ったんだ?」

 アルがレネオの反対側から声を掛けた。


「なっ、なんだお前たち! ほっといてくれ!」

 男は袋を両手で抱えながら二人を見ると、そう言い放って走り去っていった。


 アルとレネオは視線を合わせると、ニッと笑い、

「なんだか上手くいったみたいだな」

「だね。まさか落としていくとは」

 レネオがベンチ近くから、男が落としたものを拾った。


 手に取ってみるとポーションのようだったが、レネオでも見たことがない色をしている。


「とりあえずジャンさんに持っていこう」

「ああ、そうだな。まずはクエストクリアだ」


 アル達はすぐに冒険者ギルドに戻り報告をすると、クエストが完了した。

 持ち帰ったポーションは、ジャンでも何か分からないようだったか、冒険者ギルドで調べて、何か分かったら教えてもらうことになった。

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