第31話 ロアミア教団①
パーティメンバーの募集をしてから半月以上が経っていたが、いまだにジャンからは応募があったと言われることがなかった。
アルとレネオはダンジョンクエストを諦めているわけではないが、引き続き平穏な冒険者生活を過ごしていた。
その日も町の近くでの獣退治を終え、クスノキ亭に戻るところだった。
「あれ? エイダさんじゃない?」
レネオが遠くにいるクスノキ亭の女将に気付いた。
「おっ、ホントだ。今日の飯は何かな、楽しみだぜ」
大きな袋を持ち、買い物帰りに見えたエイダにアルも気付くと、嬉しそうに夕食の献立を想像してみた。
するとエイダは、一緒にいた男二人に突き飛ばされ、倒れこんだ。
「な!? レネオ、走るぞ!」
それを見たアルは、すぐに走り出した。
男たちは倒れたエイダを、さらに踏みつけようとしている。
「何やってんだお前らああぁぁぁっ!!」
アルは叫びながら剣を抜いた。
「ちっ、誰か来やがった。いくぞ」
アルが来る前に、男たちはその場から走り去っていった。
「大丈夫か?」
アルは剣を収め、立ち上がるエイダに手を貸した。
「この馬鹿もんがっ!」
エイダは立ち上がると同時に、アルの頭をひっぱたいた。
「痛っ。何すんだよおばさん!」
アルは頭を抑えながら言い返した。
「冒険者が町中で剣を抜くもんじゃない!」
エイダはもう一度叩く素振りをしながら言った。
「いや、だってよ! あいつら暴力ふるってたみてえだし」
アルは叩かれないよう手で防ぎながら答えた。
「はん。あんなチンピラなんぞ、どうってことないさ」
「今の男たち、知ってるんですか?」
後から追いついたレネオが、激しく息をしながら尋ねた。
「あれは、最近この町に勢力を伸ばしてきたロアミア教団の連中さ」
「教団? 教団の関係者があんな暴力的なんですか?」
「さあてね。あたしも詳しく知ってるわけじゃないが、自分たちでそう名乗ってやがるから、そうなんだろうね」
エイダは落とした食材を拾い集めながら言った。
アル達もすぐにそれを手伝う。
「で、おばさんに何の用だったんだ?」
アルは最後の食材を拾うと、エイダから買い物袋を受け取りながら事情を訊いた。
詳しく聞いてみると、ロアミア教団はこの近くに事務所を開設したばかりなので、寄付をしろというのだった。
近くにいるのに寄付をしないと不幸になるから、お前たちのために寄付を募っているのだそうだ。
クスノキ亭には何日か前に一度やってきて、その時はエイダが叩き返したが、さきほど偶然出くわして、寄付を再度断ったら突き飛ばされた。
「なんだそれ? ひでえ話だな」
「とても教団を名乗る人たちがやることじゃないね」
アル達は理不尽な話に怒っている。
「ほら! あんた達が気にすることじゃない。さっさと帰るよ!」
エイダは一瞬表情が和らいだが、すぐにいつもの厳しい表情に戻り、二人を促した。
それからアル達三人は、並んでクスノキ亭まで歩いて帰った。
二日後の朝、ジャンが見せてくれたクエスト一覧の中に、アル達は興味あるものを見つけた。
「おっちゃん! ロアミア教団の調査ってなんだ?」
アルがそれを詳しく訊いてみた。
「お、これか。ロアミア教団は、最近この町に現れた新興宗教らしいんだが、どうも評判が悪いんだよな。町の議会に苦情が結構あるらしくて、冒険者ギルドに調査の依頼が来たってわけだ」
「ふうん、そうなんだ」
アルは『町の議会』の意味が分からなかったが、偉い人達があいつらに目を付けて調査を依頼してきたという雰囲気だけは
「それで、調査って、どんなことをすればいいんですか?」
「教団の連中を三日間尾行し、やつらがどんな活動をやっているのか調べてもらいてえ。どこに行ってるのか、誰と会っているのか、とかな」
「ねえアル、これ」
レネオがアルの肩を叩き、視線を向けた。
「ああ、これやるぜ!」
アルは一度レネオを見てから、ジャンにクエスト受領を伝えた。
「なんだ、町中の調査系クエストをやるなんて珍しいな。こういうのはシーフとかが向いてるんだから、やらねえんじゃなかったか?」
「ま、たまにはな」
アルはニヤけた顔で親指を立てた。
「なんかワケがありそうだな。まあいいや。頼んだぜ」
アルとレネオは、クエスト受領の手続きを済ませると、早速ロアミア教団の事務所へ向かい調査を始めることにした。
「ちょうどいいクエストあったな。あいつら気になってたし」
「うん。エイダさんにあんなことして許せないよね。きっと色々悪いことしてると思うし、僕たちで暴いてやろうよ!」
女将のエイダにはこの件に関わるなと言われていたが、二人はどうしても気になっていた。
薬師マークの店にも、ロアミア教団が来て寄付を
冒険者の恰好では目立つので、アルとレネオは部屋に戻り着替えてから、ジャンから聞いた二つ隣の地区にあるロアミア教団の事務所に行ってみることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます